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Rest der welt

前another world、移転しました!こちらは管理人が自由気ままに書きなぐっている小説サイト。戦いと甘い恋愛、溺愛、ファンタジー一筋、何故かシリアスになるけど最後ハッピーエンド前提。中傷などはお断り。ですが、誤字・脱字の指摘、感想やアドバイスなどは泣いて叫んで喜びます。絵師さんも募集中です☆ミ

5.きみとならいきてゆける。

Act3.まほろばの姫と暗殺者の恋

 君が、とても悲しそうに顔を歪めるから。


 とても、苦しそうにそう言うから。


 泣きそうに震えるその声を耳もとで聞いて。


 心が、震えた。胸がこれでもかというくらいに痛くなって、どうしようもなくなって、君が好きだととても思った。――どうでもいい、と思った。君のその苦しそうに囁く言葉の端々から、わたしを好きだという感情が伝わってきて。
 信じない、嘘だ――と思っているわたしの心を嘲笑うように――その想いの証拠をつきつけて。


 わたしの心臓を縛る。


 もう、どうでもいい。


 わたしのせいで、君が死んでしまうかもしれない。


 そんなリスクから目をつぶって。もしものときがあったら、わたしが身体と命を張ろう。「かみさま」に頼んで、護ってもらおう。どうせ命を懸けるのなら、そのほうがただ死ぬよりよっぽどいいではないか。
 そうだ、そちらのほうがよほど君のためになるもの。


 けれど、君が懸命にわたしを護ってくれるのなら。
 生きろ、と言うのなら。
 こんなわたしでも、価値を見いだせるということだろう?


 「す、き――――――っ、」

 「あぁ、――俺も」


 甘い吐息の裏、熱に浮かされてわたしは言った。身体を重ねるのなら、君とがよかった。こんな幸せを、感じられる、君とがよかった。


 全部、消してやる。


 低く囁いた君の声に、ぞくりとする。


 低い声は――彼の主への恨みも孕んでいたが、それにはわたしへの熱いそれも含んでいて。

 「あぁ、……おねがい、……っ」
「――……ッソラ……っ」
「――ぁ……っ」

 
 笑みを浮かべるリヒトに、微笑みを浮かべた。


 目を見張る彼に、そして切なそうに顔を歪める彼に、もっと笑みを深めた。


 ――そういえば、君にこう笑いかけるのははじめてだったか?


 ずっと君に、笑いかけたいと願っていた。わたしはふつうの女の子のように笑えるだろうか。
 ふわり、と微笑んでゆっくりと意識を暗転させた。


 *

 目を覚ますと、となりに寝そべっていた彼と目が合った。

 「――ん、……?」

 湯あがりの自分だ、と思った。肌は少しだけしっとりしていて、髪も若干ぬれている。
今さらだ、とも思う。世話係だったとき、毎日のようにこの貧相で、まわりからは気味悪がられる紋章の刻まれた身体を見せてきたのだ。恥ずかしいというよりも、別の意味で見せることをためらう身体である。
「……シャワー……」
「ああ、湯あみさせた。血まみれはさすがにだろ」
「重かった、だろう」
「――全然」
抱き寄せる彼の腕が新鮮だった。
「勝手にすまないな」
「……いや、今さらだから全然」
謝罪してきた彼に首を横に振る。


 「……寝て、いなかったの?」
「もともと、あまり寝ないように仕込まれてる。気にするな。――お前は寝ろ」
「………ん、」

 頭を撫でられて、ゆっくりと目を閉じるけれど。

 「……お前も俺に笑ってくれるんだな。驚いた」

 そう囁いたリヒトに黙り込む。

 「――……おどろく、こと?」
「お前は、俺に笑ってくれないものだと思っていた。実際そうだったしな。ずっと、見たいと思って、いた。だから、嬉しい」
「……もう、……どこかの巫女姫でも贄でも、暗殺者でもないから」
わたしの言葉に、君は笑った。
「――そうだな」

 ああ、と理解する。


 君の言っていたことがわかった。


 君が楽しそうにそんな言葉で笑うのが、嬉しい。

 「ふふ、」

 わたしも笑う。

 抱きしめてくる腕に身を委ねた。 


 君とのこれからを、想う。



 どんな、困難が待ち構える逃亡生活であろうとも、君のそばで幸せを探そう。 


 もう、どこかの贄の姫でもない。
 鎖につながれていない自由を手に入れた。
 そうして、暗殺者でなくなった君のそばで、ただの女の子で。


 そのことがとてもうれしい。


 君となら、きっとどこへでも――戦って、逃げてゆける。


 そう思えるようになりたい。いや、これからはそう思おう。



 「うん。――わたしは、」


 この弱い心も捨てて。
 強い君のとなりで。


 きみとなら、いきてゆける。どこへでも。


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4.うばうのもうばわれるのも。

Act3.まほろばの姫と暗殺者の恋

 走って、走って、走って。

 大きな街へと続く一本の道までたどり着いた。――大人しく抱き上げられているミソラ。けれど、いつもみたいに首を腕を回すのではなく、俺の服を掴み続けているわずかな抵抗と思えるそれに、ゆらりとくぐもった感情が浮かんだ。
 雨がよけられそうな木の影を探して、そこに降ろす。

 「逃げるなよ、」

 そう念押ししたのはきっと、俺が何よりも――彼女が目の前からいなくなることを恐れているからかもしれない。
 一度は、自身で奪おうとした命のはずなのに。
 彼女が自分の腕から奪われることがこんなにも恐ろしいと思うのはなぜか。

 彼女を残して、影に隠れて道の様子を見る。――夜も眠ることのない大きな街。そこへ続くこの道には昼夜を問わず、旅人や商人が歩いている。
 血を隠せる手頃な洋服や外套を着ている人間が通ればそれでいい。――それを奪って着よう。最初に現れた商人を、静かに襲って、その商人が気づかないうちに気を失わせて、馬車をあさった。商人がはおっていたのだろう外套を見つけて、今後の洋服も同時にくすねるとすぐにミソラのもとへと戻った。

 彼女がいることに安堵して、それを無表情の裏に隠して彼女を抱き上げる。

 「向かうぞ」

 検問もなにもない体制の緩い街。
 けれど、めだった犯罪が起きていないのは、この街の活気のおかげなのだろう。

 もともと、そういう事件の少ないことで有名な街だ。彼女とともにしばらくの間隠れみのに選んだのもそれが理由だった。
 ミソラには目をつむるように言って、宿を頼む。
 連れの具合が悪いんです、それだけで宿の主は心よく部屋を貸してくれ、滞在許可が下りる。大きな宿だ。――いろんな客が行きかっていることも刺客たちの目を欺くことができるひとつの助けだった。

 内鍵をかけると、彼女を椅子の上へと下す。

 使っていいだろうタオルをひったくると彼女におしつけて、もうひとつのタオルで髪を拭いてやる。
 いつも、俺がやっていたことだった。
 世話係としての自分。――いつか、彼女を殺すためにやっていた立場。

 「風邪をひくから、よく拭いておけ。――すまないが、先に風呂に入ってくる。いい加減血まみれじゃ、怪しまれるしな」

 彼女にそう言ったあとに踵を返す。
 浴室のところに行くと、今まで来ていた血で汚れたものをすべて脱いで、ごみ袋を見つめてそれに詰め込む。

 身体を洗って、部屋に戻ったときに見た光景に――焦りと怒りと悲しみが同時に襲ってくる感覚がした。
 窓を開けて、なんとかして外に出ようとしている彼女の姿。――脚をまともに使えない彼女は逃げようとしているのではなく、死のうと懸命になっているんだということだけは理解できた。
 タオルを、捨てて。
 走って、――無理やりに自分のほうへと引っ張った。

 彼女が悲鳴を上げる。

 そんな声も、無視をして――彼女をそのまま、抱き上げる。ベッドに乱暴に投げおろして、――ぎろりと睨む。ベッドに縫い付けられた彼女はただただ、もがいて。
「なぁ、俺から、逃げられるとでも思ってんの?」
「………っ」
「俺のそばにいることより、死ぬことを選ぶのか。そんなに必死に、動かない足を動かして、俺のそばから逃げて死ぬのか?」
「――っ」

 これは、報いか。
 好きだと言っても、彼女は信じてくれない。――それもそうだ。彼女は、自分を俺が殺すことを悟っていたのだから。そんな彼女の目には、俺は暗殺者にしか見えないのだろう。
 自分を殺すためにそばにいた男。
 信用できるはずもない。
 これは、報いなのだ。――そう思い直す。

 けれど、この気持ちは本物で。お前にどう言われようと、お前を護りたいと思っている自分がいて。いっそ、潰したほうが楽だったかもしれないこの気持ちを、消せずにいる。大事、な感情。
 ああ、こんなにも、お前を想っているのに伝わらないというのは皮肉だ。

 手を這わせる。

 巫女とはいいがい露出度の高い服は、俺が殺したあの男の趣味で。はがしたい。ぬがしたい。――あの男が、彼女を所有していた証なんて。何よりもそのことにひどく苛立っているのは、俺自身で。

 首筋に顔を埋めて、耳もとに囁いた。

 お前の苦しそうな顔を見たくない。お前の悲しそうな顔も、泣きそうな顔も、させたくはないのに。――そうさせているのは自分で。
 お前が望んでいないのに、お前を助けて生かしているのも自分で。きっと、お前の楽しそうに笑っている顔が見たいと思うのも、俺の我儘で。
 苦しそうに顔を歪ませるお前をなぐさめる言葉すら俺は持っていなくて。

 「どうすれば、」

 低く囁いた。

 「どうすれば、お前の苦しそうな顔をやめさせてやれる。どうすれば、俺がお前を好きだと信じてくれる。どうすれば、お前は、俺のそばにいてくれる。………お前を助けたいと思うのは、俺の我儘なのか」

 俺を暗殺者ではなくさせたのは、お前なのに。

 好きだというくせに、俺を拒むミソラはやはり逃げるように視線を逸らした。



 けれど、少しだけ違っていた。

 「――――………こわい、んだ」
「――?」
「君が好き。――でも、君にとってわたしは足手まといで。脚の動かない女とともにいて、暗殺者から逃げられるとも思えない。……君が、目の前でいなくなるのが一番怖い。わたしは狙われるから、それなら死んだほうがまし、だとおもった……」
震える声で、感情を吐露する彼女を見つめる。
「それを想うと、明日がとてもこわい。……あの家にも家族にも、未練はない。家族のような扱いはされなかったから。けれど、君だけはどうしても生きていてほしいと願う。……わたしは、君が大事だから」

 あぁ、と吐息を吐いた。


 心臓が、痛い。


 泣きそうになりながら、苦しそうにそう言うミソラを焼きつける。


 「―――リヒト、……だから、」
「ミソラ」
「――え、」
「お前が、好きだ。――お前を好きになったときから、覚悟はしていた。だから、何が合っても逃げ切って、護りきる。だから、俺のそばに、いてくれ」


 願う。


 「君が何者で、あろうとも、……わたしにとって、リヒトはリヒトだよ。……君だけが、わたしを見てくれたこと。とても感謝してる。――醜くて、うつわだけのわたしでも、君は……わたしを、好きだと言ってくれるんだね」


 酷く幸福そうに囁くミソラに、劣情を覚えた。



 噛みつくような貪る口づけを。


 彼女は、受け入れた。
 ずくり、と劣情が加虐心を膨らませる。


 過去がまとわりつく衣服なんて、はいでやって――過去のきずあとを唇でなぞる。神を受け入れ、その力を扱うたびに刻まれる紋章が、――彼女が彼女たる証なら。それもすべて愛そう。


 「………んっ……ぁ、り、ひと」
「――、?」
「……今まで、嫌いって言って、ごめん」

 ただわたしが、怖かっただけ。

 そう囁いた彼女を撫でると、再び口づけを送った。


 「すべてをうばわれるのなら、君が最初がよかったなぁ……」

 泣きながら笑った彼女に、俺も口端を歪めた。

 「……俺も、できることなら最初にすべて奪ってやりたかった。あのときから、お前のことを好きだったし、」
「――わたしも、」

 嫌な出来事を塗り重ねたような過去でも、そんな仮定で笑いあえる。苦しい過去でも、ともにいた証だと。
 うばうのも、うばわれるのも、――ああそうだな。
 お互いがお互いであったらよかったと思っていた。

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3.きみがすきだというおもいだけ。

Act3.まほろばの姫と暗殺者の恋

 そっと、唇が重なった。

 強い力で押さえつけられたまま、首にあったその手が頬へとうつった。

 「あぁ、馬鹿だな。――俺は、――本当に、馬鹿だ」

 自嘲じみた微笑みを浮かべながら、何度も顔を近づける――彼のひとに、ただ驚いていた。

 好きだ、と言ったこのひとの言葉。
 事実が呑み込めない。

 「――どう、して」
「――ん?」
「どうして、殺さないんだ?君は、わたしを殺すために近づいたんだろう」
わかっていたけれど、口にしてはいなかったことを言った。予想していた事実とは違塢結末になっていて、慌てながら。
 気づいていたんだな、と彼は笑う。

 「お前が好きだから」

 信じられるわけもない言葉を囁いて、彼は立ちあがった。

「何をしているんだ……!お願い、殺せ………!わたしを殺さねば、……お前も任務とやらを遂行できないんだろう!お前も危険な目に逢うんだろう!――殺せ!君になら、殺されてもいいんだ。ずっとずっと、………わたしがいないほうが、この屋敷も家族も、周囲のひとたちもうまくいくとわかっていたんだ。だから、わたしは、」

 今の惨状がどうなっているかはわからない。

 でも、目の前の彼が――暗殺を生業としている者ならば、仕事はちゃんとこなすだろう。だって、その証拠に、となりに落ちるクナイは血まみれになっている。目の前の彼にも返り血が飛んでいた。

 「なぜ?」
「え――、」
「お前も、俺のことを好きでいてくれているんだろう。なのに、なぜ殺せなんて言う」
「………っ」

 意味が、わからなくなってきた。
 リヒトは暗殺者で、わたしを殺しにきて。
 けれど、殺さなくて――わたしに好きだと言ってきて。
 わたしも彼を好きだとこぼしてしまった。
 だから、お互いがお互いのことをすきで――?

 けれど、たぶん――目の前の彼は。


 わたしの家族のだれかを手にかけていて。


 ……そして、わたしを殺さなければきっと彼が危なくて。

 「君は暗殺者だろう……!わたしを殺さなかったら君は……!」
「ミソラ、俺を心配してんのか?――たった数分前に、お前の家族を殺した俺を」
「――っ」

 君は、わたしを好きなのかわたしに嫌われたいのか、どっちなんだ。

 「……君の、好きなんて、信じない。……わたしのことを好きなの?ならなぜ、わたしに嫌われるようなことをそうやって言うんだ」
「――……」
黙り込んで冷めた視線をこちらに向けた彼を見つめた。

 そう、そうして、怒ってわたしを殺して。
 わたしを好きというのなら、嫌って殺せばいい。
 君の好きは信じない。
 ――殺せないも、信じない。
 君は嘘をついてわたしを殺そうとしているのだろう?――そう、言って。

 「とりあえず、こっから出ないとだな」

 話を無言で切り捨てた彼はそう言って、足枷の鍵をどこから入手してきたのか取り出して。鎖をわたしの足から取り払った。

 「お前が好きだというのは嘘じゃない。――信じてくれないなら、それでいいさ。でも、お前は俺が好きなんだろ?」
「――、」
「否定しないお前の素直さが、いじらしくて可愛くて愛しいと思ってる。前からお前はそうだもんな」
「そんなに死にたいなら、俺と来いよ。まあ、嫌だって言っても無理やり連れていくけど。俺もお前も、ここに居場所はもうないから」

 抱き上げられる。

 力の入らない足は、生まれたころから使っていない代償だった。こんなのないのも同然で。逃げることなんてできなくて。

 強引に、横暴に、――さらわれようとしているのに、どこか安堵すらしているわたしがいて。
 家族を殺された――?あの関係を家族とは呼ばない。わたしを蹂躙したのが父だというのも認めない。わたしを畏怖のまなざしで見つめ、一切しゃべろうとしなかった彼女を母なんて認めない。わたしを姉だと知らないきょうだいたちは、わたしを「神」だと思って話しかけてきた。
 彼らに、情があったのは「家族」という言葉へなのか、――それとも人間としてのそれなのか。
 けれど、彼らがいなくなって悲しむという感情はわいてこなかった。他人同様に過ごしてきたひとたちだ。


 だれかを、家族と同等の思いで愛したひとがいるというならば。


 「――、」

 抱き上げられたその腕は、いつもされているものと変わらない。


 いつもように、腕を回すのではなく。服を、掴んだ。


 どうせ、わたしには何もない。

 何かを持つことを許されなかったうつわだ。


 わたしが所有物なのだとしたら、かつての持ち主であった父は死んだ。――一日前は世話係だった彼が、わたしの持ち主になるというわけだ。
 君が好きだ。
 君に、捨てられたらたぶんもう居場所はない。


 きみが、すきだ。


 ごちゃごちゃした考えも悩みもすべて捨てていいというのなら、きっともう答えは出てる。どこへ行こうと、何をしようと、彼が裏で何をしていたとしても、怖くない。


 きみがすきだという想いだけ、唯一のわたしのもの。



 ――殺してやろうか?

 わたしが身体をうつわとして貸す神が、そう低い声で言った。はじめて、そう言ってきたのはわたしが父に蹂躙された日だった。

 ――お前が望めば、殺すことができる。殺してやろうか?娘を組み敷く男など、この世にいなくていい。神であるわたしがそう言うのだから、殺すことを許してやる。

 尊大なかみさまは、わたしにだけは優しかった。
 自分の徳にならないだれかの欲のため、という力の行使をしているわたしを――あわれだと言いながら、かわいがってくれた。

 ――はやく、この家を出ろ。機会はあるのだから。

 かみさまの毎回のような口癖だった。――神の力は自身には行使できない。だから、自分のために、足枷を壊すなどという行為はできないのだ。けれど、外に出ることがあればなんらかの機会はあるはず、と。

 自分のために力は使えないんだから、無駄だよ。

 わたしはあきらめていた。

 動かない足で、何をしても無駄なのだと。

 たぶんやろうと思えばなんだってできる。自分以外に力を行使して、逃げ続けることだって。――それをしなかったのは、わたしが死にたかったからだろう。
 死にたいと望んで、死ぬのが怖かった。
 恐怖して、悩み続けて、いろんなところで犠牲と不穏な噂は広がっていった。


 ――殺してやろうか?

 今度は、わたしに向かってそう囁いた。

 ――殺すというよりも、完全に、お前のからだをわたしのものにするというかたちで。お前はいなくなる。……耐えることに疲れたり、だれかのためになりたいと思ったときに、呼びなさい。

 かみさまはあるときそう告げて。

 力を使うたび、わたしの身体にはしるしが刻まれていって――それが、ひとならざるものへと近づけていく。わたしがわたしではなく「うつわ」である証拠。どうせ、そのときがきたら、わたしはいなくなる。

 わたしという「個」は消えるけれど、――だからこそ、彼らにとっては脅威であり殺さなければいけない存在で、父にとっては鎖を繋がねばいけない存在だった。


 ああ、どっちにしろよかったのかもしれない。

 いずれ消えるのならば、そばにいたいのは君だ。


 心が痛くなる。


 *


 ………すきだ。

 震える声で囁いた言葉に、――森の中を失踪していたリヒトが、ぽんぽんと背中を叩いてきた。

 「俺も」

 嬉しくて、胸が苦しくなる。
 けれど、きっと嘘なのだと思い込む。

 君が命令よりも優先してくれた想いだというのに、それさえも見ないふりをして。


 きっと、うそ。


 そう言い聞かせる。


 ああ、とても矛盾している。――心なんてもう、決まっているのに。


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2.おまえをころせるわけがない。

Act3.まほろばの姫と暗殺者の恋

 仕事だった。
 依頼が来て、それを遂行するのが俺の仕事だった。

 ある屋敷の悪事をすべて証拠として入手したあと、情報を流して、屋敷の一族たちを殺すというもの。
 「神」の力を扱うと謳う屋敷。
 その「神」の力が本物なのか、嘘なのか。実態を掴んでから、どうするかを決定。使用価値があるのなら捕縛する。脅威ならば、その場で暗殺。――それが暗殺組織で下されたものだった。



 屋敷に潜入して、数か月。
 屋敷の主の信頼を得たのちに、――はじめて、出会った「神」の少女。
 実際には、「神」をその身におろすことでさまざまな力を扱うことができる少女だった。


 目が、会って。


 微笑まれる。


 これからしようとしていることを悟られたような気がした。


 さすが「神」を祀るひとだ。彼女自身が神のようだった。


 君が、わたしの世話係?


 大人びた悲しそうな微笑みでそう問いかける少女は、うつくしく。
 だれかと長く会話をすることがはじめてだとお前は言った。
 わたしなんかとそばにいる立場になってしまった君がかわいそうだ、申し訳ない。――そう、笑った。
 足の神経を切られ、鎖でつながれ自由を奪われ、父に蹂躙され、心を殺され、その部屋がたったひとつの世界。何かを悟り、達観しているようなその視線は、確かに、ふつうのひとでは見えない先を見ているようで。

 お前がときおり、悲しそうに外を見ていることを知っている。


 お前が、何よりも自由を望んでいることを知っている。


 お前が寂しがりなのを知っている。


 お前が、本当はだれかと話したいと思っていることを知っている。


 わたしは汚れた醜いただのうつわなのだ、とお前はよく自嘲する。お前は知らない。――俺がだれより知っている。お前は、きれいだ。


 ともにいる日々が続くたびに、思った。


 彼女を護りたい、と。
 自由にしてやりたい。この牢から出してやりたい。
 違う未来をあたえてやりたい。

 強姦まがいの暴行も、その蹂躙も、――あの男は「神」を服従されているという優越感に浸りたいという愚かな行為で。何度殺してやろうか、と思った。

 俺に見つかって笑ったお前は、近よるなと泣いた。

 あの、とき――自覚した。


 あってはならない思いを。



 こうやって、彼女を押し倒し――首に手をかけている時点で、そんなもの持っても無意味なのに。


 お前を護ってやれなかった自分に、一番腹が立った。

 蹂躙されて、身体のあちこちにあざが残る彼女は――動けもしないのに。近よるな、とあとずさる。鎖に邪魔されて逃げることもできない彼女はとてもあわれだ。

 お願いだから見ないで、そう泣く彼女に。


 痛いほど、自覚した。


 ああ、俺は――彼女が好きなのだ。護りたいと思って、護れなかった事実にはらわたが煮えるくらいには。お前のことを護りたいと思っているんだ。
 殺せない。
 ――――――――暗殺者、失格だ。


 俺は、こいつを殺せない。
 お前を、殺せるわけがない。


 きみのことをすきで、ごめん。
 だから、ころして。

 首をゆっくりと締め上げられているのに、死の淵が近づいてこようとしているのに。彼女はそう掠れた声で囁いて、微笑む。俺の好きな、大人びた微笑みで。


 「やっぱ、無理だ」


 泣きながら笑う。


 やっと、と彼女は微笑んだ。神を宿す彼女は、ひとばなれした聡さを持つ。悟ることもきっとできたのだろう。彼女に知られていることに、驚きはしなかった。押し倒され、羽交い絞めになれ、首を絞められ、――それでも微笑む彼女に、逆に心臓を掴まれた気分になった。



 こんなときにでも、きれいに笑うお前が好きだ。



 「好きだ。ミソラ、俺にお前は殺せない」


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1.きみにころされるのをまっていた。

Act3.まほろばの姫と暗殺者の恋

 雨が降っていて、だれかの足音さえ聞こえなくなるくらいの雷鳴が聞こえる。真っ暗な夜で、――静かなはずの時間は、喧噪にまみれていた。
 ここは、かみさまがいる世界。
 わたしはそのかみさまを祀るための存在。
 かみさまを降ろすためのその力は、――家族たちを変えた。父はその力を無心し、わたしを屋敷に閉じ込めた。足の神経を切られ、鎖へとつながれ――絢爛な自分の部屋だけがわたしの世界になった。

 ないても、くるしんでも、かなしんでも、何も変わらない。

 ただ、わたしの家系が神の家だと崇拝されているらしいと噂で聞いた。

 父はわたしを力でしばり、母はわたしに恐怖した。きょうだいたちは、わたしを姉とは認識せずに、使用人たちはわたしを「かみさま」として見た。この屋敷にいるひとは、わたしの力を目の当たりにしている。わたしを「かみさま」として崇拝しているけれど、父に逆らえば何をされるかわからない。そんな恐怖から、使用人たちはわたしのことを丁重に扱っているのかもしれない。

 自分が何なのか、わからない。

 いつも近くにいるかみさまだけが、わたしをわたしとして見てくれる。

 あぁ、よくわからない。
 一縷だけ残る情だけが、わたしを鎖につなぐ。


 かみさまがいる世界。

 かみさまはいるのに、この世界は理不尽だらけだ。



 異常な力は、――災いを呼ぶ。いいことなど起こらない。実際に、父が外に与える恐怖は計り知れないものだろう。「神」の力を得た一族――馬鹿みたいな噂が、あたりには流れているのだろう。

 知っていた。
 この屋敷にいろいろな者たちが攻撃をしかけてきていること。
 暗殺者が入り込んでいることも。

 そして、それを殺し殺されとしていることも。



 ―――だから、


 はじめて、君に会った日。


 わたしは悟ったんだ。


 君は、わたしを殺しに来たんだと。



 「――――やっと、」



 五年前から、だったか。――わたしつきの世話係になった青年を見つめた。五年間、だれよりもそばにいてくれた。動かないわたしの脚がわりになってくれた。屋敷の中だけだったら移動することができるようになったわたしのそばに、唯一いてくれたひと。
 ひとではないとみんなが恐れるわたしのそばにいてくれた。

 冷たく、それでも優しく、君は不器用に――わたしを護ってくれた。

 周囲の汚い暴言も無視して、それでもそばにいてくれた。周囲から嫌われる暮らしづらいこの屋敷で五年もの間、わたしのそばに。
 君のやさしさが嘘であっても。

 わたしは君のその不器用なやさしさがすきだ。

 君の笑みが嘘であっても。

 わたしは君のその笑った顔がすきだった。




 暗闇でも、わたしの目には彼の顔が見えた。――押し倒されて、羽交い絞めにされる。服がぬれているのは雨ではなく――血。鎖がじゃらりと暴れる音がした。

 「―――――や、っと」

 首が、しまる。


 血だらけの手。


 横に放り出しているクナイ。


 五年間もの間、君はわたしのそばにいてくれた。いたくもないだろうに、わたしのそばで笑ってくれていた。偽りでも優しくしてくれた。
 君のふと見せる素の表情も、苦しげにしている姿も知っていた。
 君の表情のいたるところに、――本当を探して、嘘を探した。月日が経って、そんなものもどうでもよくなった。

 君が、すきになった。


 すきに、なってしまった。


 ―――――――――――――――だから、



 「――リヒト」


 微笑む。


 ゆっくりと力を入れられる首もとに、あぁ、と思った。微かに震えているのは、なぜか。


 ゆるりと、手を伸ばす。


 なぜ、だろう。


 目の前の世話係の目じりから流れるそれは血ではない。


 「なぜ、泣いているの。………殺すんだ。……君が、ずっと殺したかったわたしを」


 微笑む。


 君に、殺されるなら――いい。


 わたしのすきな、ひと。


 ――こんな、醜いうつわでしかないわたしに想われても嫌なだけだろうけれど。



 きみのことをすき、でごめん。
 だから、ころして。


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プロフィール

高宮麻希

Author:高宮麻希
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執筆→高宮
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