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「蓮姫」
第十章 急変を駆ける

急変を駆ける 【弐】

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 「皇眞様」

 数週間経ち、楓有雅の皇眞の呼び名はそれで定着した。
 白吹本家を皇眞について行ったり来たりしているうちに、そうなったらしい。
 皇眞にちょこちょこと同行するようになり、楓有雅が―――年齢のわりには知性的で、だが素直だということが分かってきた。心の内には憎しみを抱えているが、それでも良い少年だった。
 そして楓有雅を連れて歩くようになって、皇眞にも変化が現れたのだ。
 前よりも表情が豊かになり、―――笑うようになった。それは、もう自分を偽らなくていいという重荷がはずれたこともあるのかもしれない。
 それは皇眞自身も自覚していることで。
 今更になって、素性も知らぬただの敵であった楓有雅を助けると決めた父はすごいのだと実感した。 

 皇眞の部屋に入ってきて、あたりを見回した楓有雅が唸るように腕を組んで眉を寄せる。
 「何だ」
「思っていたんですけど、この部屋は殺風景ですよ」
「―――そうだな。 飲み物も何も無いしな、好きにそろえていいぞ」
「でも……あなたの部屋ですよ」
「お前の部屋でもある。 俺はどうでもいいからな、そういうこと―――だから、お前が揃えろ」
「わかりました」
楓有雅の前向きな頷きに、皇眞は笑んだ。
「聞き分けが良くていい」
楓有雅を撫でて、皇眞は自分の撫で方が蓮に似ているということに気づく。 そこで、少しだけ悲しく懐かしい気持ちになって、父もこんな気持ちだったのかと反芻した。

***

 楓有雅は楓有雅で、皇眞の笑みに―――好きではない意味でのどきり、という心臓の音を感じた。
 
 この人は女だ、だけど強い。
 白吹の者が、このひとについて行きたいと思う理由が一緒にいて嫌というほど分かった。 そして、楓有雅自身ももう惹き込まれている。 ついて行きたいと思ってしまっている。
 前当主白吹蓮も、良い意味での強引な性格だった気がする。 そして、彼女もまた強引で人を惹きつける。
 不思議な奴だ、と白吹蓮は言った。

 ―――本当に不思議な人だ……。
 
 護りたいものを見つけろ、そう言われた。
 まだ見つけられないから……護りたいものを、師匠になった皇眞にしてみようと思う。きっと、彼女も分かってくれるはずだ。

 絶対に、

 護っているのはこっちなんだがな

 そう言って、笑いそうだ。

 だけど、思うのだ。
 ―――この人についていくなら、文句はないかな。

 「あ、……フウ!」
皇眞の楓有雅の呼び方は、それに決定されていた。
「何でしょう」
「甲珠を呼んで来い。 で、家の使用人に頼んで、食器とかでも持ってこい。 お前の服は、用意させておくから……今は俺の昔の服を持ってこい」
「俺、ひとりで行くんですか」
「ああ、そうだ。 ―――馬は乗れるか?」
「乗れない、です。 基本は足でしたからね……」
「そうか……あとで教えてやる。 今は歩いていけ、刺客なんだから早く走れるだろ」
「はい! 分かりました!」
「ああ」
 
 ほら、あのひとの笑顔は「やってやろう」という気にしてしまうのだから。

 楓有雅は当主としての仕事をしている皇眞を一瞬見やって、白吹の家へと足を急がせた。

***
 
 皇眞は、楓有雅が出て行ったのを見届けると、ふうとため息をつく。
 ―――やっと一人か……。
まだ子供と言える少年に気を使わせてしまうのはどうかと思うが、皇眞だってまだ大人にはなりきっていない。
「―――…父様、…あなたはこんなにたいへんなことをしていたのか……」
呟いて、書類を書き終わりラストスパートをかける。 当主としての招待状の返答、女と明かしてから来るようになった見合いの対処。刺客の手配や、仕事の命令、―――引き続き、東宮と藍園寺の情報を手に入れるための刺客たちの派遣。 
 本家で起こる揉め事や、悩み事もほぼが皇眞のところにやってくる。 本家では、当主がルールなのだから、それもあたりまえなのだが。
 
 いなくなってから、偉大さに気づく。
 いなくなってから、父の存在の大きさに気づいたのだ。
 皇眞という名を忌まわしいものだと思っていた。 父に自分は愛されていないんだと決め付けていた。 よく子供にある反抗期のようなものが、皇眞にもあったのだ。 見ようとすれば、こんなにも父は自分を愛し、護っていた。
 自分のせいではない、と父は言った。

 ―――だけど……父様…、あなたが死んだのは……わたしを狙った藍園寺のせいでもある。ということは、わたしのせいだ。

 その事実が重く圧し掛かって、代わりに仇を取れと全身の細胞が訴えてくる。
 憎しみに駆られたら、きっと自分は自分を見失う。
 皇眞はそれが分かっているから、どうにか制御しているのだ。

 「―――…はあ」

 ため息をつくと、仕事を一段落させ寝台へと寝転がる。
 もともとあまり眠れない皇眞の睡眠時間は多くても三、四時間ととても短い。 安心して眠ることができない毎日が小さな頃から続き、そのせいで睡眠が浅くなった。
 多忙な一日にしては少なすぎる睡眠で、数週間を過ごしてきて体が軋みを上げていることを、皇眞は気づいていた。

 「―――…おい、皇眞。 いるか?」
暁人の声がする。 皇眞は飛び起きて、すぐに返事を返す。
「特優隊の仕事だ。 その仕事のあと、軍隊の様子を見るように言われた。 お前を批判してる、―――あの時の貴族がいるが、平気か?」
あの時の―――というのは、初めて暁人や朔龍と出会った試験の日のことだ。 勝ち残った者がだけが進める森での試験の時に、負けた貴族出身の粋がっていた兵士数人の者たちのことを暁人は言っている。
 今、強く批判しているのは彼らだけだ。 ただ、あの時勝って自分より上の地位に女がいるのが許せない、という理由だけで批判していることは誰の目から見ても明らかだ。
 その他にも、女は本当に強いのか、と批判している者も合わさっているらしいが、―――あの試験に一位通過したことが実力での証拠となり得ている。
「愚問だな。 俺は知らん、忘れた」
 皇眞は、自分より弱いものなのに歯向かってくる輩は完璧に無視して、見ないものにしている。 壁を一枚作っているから、何を言われても平気だし、何をされても全く何も感じない。 ただし、自分に対しては。
 その矛先が、護るべき者に向かったのだとしたら、完膚なきまでに叩きのめすつもりだ。
 「お前、女だって明かしてから……どんどん男っぽくなってきてるよな。 いや、もともと男だったけどよ」
「どうも」
「褒めてねぇし! つーか、蓮様にも似てきた」
「どうも」
「ま、それは褒めてるからいーわ。 じゃ、そういうことだ。 午後だかんな」
「了解」
暁人は頷くと、扉を閉めて出て行った。 皇眞はふう、とため息をつくと―――弟子となった少年の帰りを待つのだった。

***

 「皇眞様、いいですか」
扉がノックされ、楓有雅の声がする。
「皇眞、来たよ」
続いて、甲珠の声もして、皇眞はいいぞ、と声をかける。 すると、楓有雅が入ってきて、ばたばたとカゴを持って、寝台の上へと置いた。
「お前……、またいろいろと」
「ひよりさんに説明して頼んだら、持っていけと言われたので。 皇眞様はコーヒーか紅茶が好きだそうなので、それ関係を」
言いながら、何も置いていない殺風景な棚に食器を並べ始めた。
「お前、いい主夫になりそうだな」
「―――何ですか」
「何でもない」
皇眞は小さく呟きながら、甲珠を見やる。
「お前をここに呼んだのは、こいつのことについてだ」
「……楓有雅の?」
「ああ。 こいつを弟子にすると言ったが、こいつは天涯孤独だからな。 いろいろ面倒が起こった時にどうするか、戸籍を作らないといけない」
「―――……そうだね」
「白吹では駄目だ。 だから、お前のところに戸籍を入れても平気か? 形上だけだし、大人になれば外せばいいしな」
皇眞の言葉に甲珠はふっと笑んだ。
「俺は君の頼みを断れないよ、残酷はくらいにね」

 ふと、悲しい響きを帯びた甲珠の言葉に皇眞に緊張が走った。

 何かを言うつもりでいる、それは悟れることのできる予感だった。



 「誰もいない。 騒がしい問題も起きてない、今なら君に話せそうな気がするよ」
そう切り出した甲珠の顔は真剣だった。 皇眞は苦い顔をして、楓有雅はあからさまに変わった雰囲気に、体をびくつかせた。
「楓有雅、君は今から俺の弟ってことになるね。 部屋を出るんだ、今すぐに」
冷ややかな笑みは、皇眞以外に向けるものだった。 彼の特別な笑みは、皇眞にしか向かないと楓有雅はもう分かっていたし、それは周知の事実だ。
 そして、今口で言われただけだが、数日後に確立されるだろう話の内容では―――甲珠が義理の“兄”になる。
 兄の言うことは聞け、そういうことなのだろう。
「……はい…」
兄でなくても聞いてしまうのだから。 楓有雅に拒否権など無いのだ。
 皇眞の顔をちらり、と見る。 甲珠が何を言っても、皇眞が否定をすれば居座るつもりで楓有雅はいたが、皇眞も弱くだが頷いた。楓有雅はもう一度、「はい」と返事をして、部屋を出て―――扉を見つめるのだった。

***

 そう、甲珠の言うとおり―――一時的に一段落はしているのだ。
 皇眞の最愛の妹、彩紅のこと以外は。
 「―――……桜姫」
甲珠が自分の本来の名前を言った。 限られた人物以外の時にしか明かさない名前で。それは、女である自分に言っていることなのだと理解できた。
「―――」
「君はもう、分かっているよね」
「……」
「俺も、わかってるつもりだよ。 察しはいい方だから、君と皇帝が恋人同士なのも、俺が君を好きなことを、君も皇帝も知っているってことも」
哀しそうな笑みに、皇眞は息を呑んだ。
「それでもね、俺は君に言おうと思って」
好きだって、後に続いた言葉に甲珠の切ない微笑も追加される。 
 皇眞は酷く顔を歪ませて、なんとも言えない表情をつくった。
 ―――まさか……、
 ここで言われるとは。 皇眞は思いながら、甲珠を見つめる。
 ―――でも、はっきり答えないと……甲珠は。
特別な存在だ。 月夜とは違うとしても、甲珠は特別。 心を許して人を信じることがなかった皇眞の初めて信頼できた人物が甲珠と珠愛だ。 その絆だって、計り知れないものがあると、皇眞自身も分かっているから。
「好きだよ。 やっぱり何度諦めようと思っても、駄目なくらい俺は君に心酔してるらしくてね? それでも、俺は君の幸せをすぐ横で見ていたから。 君の幸せが皇帝といることなら、俺は喜んで身を引くし、……君が、皇帝がいなくなって寂しいなら、俺は皇帝を死んでも護るよ。 嫌だけどね」
笑みながら言った甲珠は寝台に座ったままの皇眞と視線を同じ高さにするまで腰を屈めた。
「だから、君の今の想いを……正直に言ってくれないかな? 僕への想いを」

 そうしたらね、諦めがつくから。

 そう囁く甲珠のつくった笑みは、本心で。 
 それを、やっぱり皇眞は好きで、やっぱり家族なんだなと思うのだ。
 でもその好きは特別な好きではなく、―――仲間を思うような、きょうだいを思うような好きであって。
 泣いてはいけないと、皇眞は思った。―――泣いたら、甲珠に申し訳ない。

 「……甲珠は、好きだぞ。 でも、それは家族の好きで、……彼とは違う。 それでも、“わたし”は甲珠が好きだし、頼りにしてるし、一緒にいると落ち着くし、死んだら悲しいし、護りたいって思う。 でも、実際護られてることのほうが多いから、いつも感謝してる。 甲珠と珠愛がわたしのために人生を棒に振ってるって分かってる。 でも、わたしはお前がいなくなったら悲しい。もちろん、珠愛も」
「うん」
甲珠の相槌に皇眞は視線を落とす。
「だから、お前のことは好きだよ。 ―――たぶん、月夜を抜きにしたら一番に」
「じゃあ、俺は二番ってことかな」
くすり、と甲珠は笑む。 それはいつもの笑みで。
「ますます、君は俺を心酔させたいみたいだね。 俺は、ずっと君を護っていくつもりだ。―――俺は桜姫しか見えていないみたいだから」
それはかなりの心酔ぶりだと思うが、と皇眞は無碍に否定できない。
 甲珠の優先順位は昔からことごとく自分だったのだから。
 「―――わたしはお前を縛り付けているな。 地位でこの血で、契約で、命令で」
「俺はね……自ら君に繋がれにいってるんだから心配しないで。 目の前で、君と皇帝が幸せになっていて……もし傷ついたとしても、君が幸せなら俺は幸せだよ」
そうやって甲珠は笑んだ。
「なんだか、お前は……自分から傷付きにいくんだな……」
「それくらい自虐的な愛が、俺らしいってことなんでしょ」
皇眞を覗き込んで、甲珠はまたふわりと笑みをつくる。 そうして、額にキスを落とした。
「―――っ…」
「……君のことは一生諦められないみたいだから、……君が皇帝と喧嘩したら、君を攫いにいくことにする」
甲珠らしからぬ言葉でそう冗談交じりに言った。 皇眞はびっくりしながら彼を見上げると彼は首をかしげる。
 「いつもどおりにして。 あと、最後にお願い。 君の好きな相手が二番なのは譲るよ、それでも嬉しいから。 でも―――一番の部下は俺にしてね?」
皇眞はそれに強く頷いた。
「お前以外いないし、考えないから心配するな。 お前が一番の部下で、一番の信頼できる仲間だ」
「その言葉で十分。 ありがとう、手間取らせて悪かったね?」
甲珠は皇眞の頭を撫でたあと、部屋を出て行った。

 嵐のようなその出来事に、皇眞は呆然としたまま甲珠を見送り、―――落着したそれに、ふうと安堵の息を漏らしたのだった。
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~ Comment ~

加筆しようかな・・・

この回、少しだけ加筆しようかなとか今考え中です。
忙しいので、今はできませんが。

なんか・・・

あれですよ・・・

恋愛関係ではない男女の特別な関係っていうのも
なんか切なくて萌えます。

恋人別にいるのになんで!っていう方もいると思うんですけど
浮気とかではなく気持ちがよそに行くというのでもなく
うーーーん、なんて言うんでしょう。

そういうの萌えます。
甲珠と皇眞の関係性ですね、はい。

このお話の場合、都合上 皇眞←甲珠 と気持ちは向いていますが(><)

そして、皇眞と月夜のふたりをにこにこ邪魔する甲珠の図を
想像していますw

それでは~。高宮でしたー。あーねむいです。

切ないですね

基本的に男女の友情は成立しないとは思ってますけど、信頼関係がベースにある同士という立場でなら成立するかなと。
でも皇眞のようなカリスマなら恋愛感情の有無に関わらず慕ってくる男性が多いでしょうし、それは仕方のないことでしょうから、後は月夜の包容力でしょうかね〜。
甲珠がんばれ。

コメ返!dada様へ!

そうですね~
甲珠と皇眞のはまた友情とはちょっと違いますからね、
なんというか信頼関係でしょうね。
自分で書いておいて説明しづらいふたりの関係です 笑

カリスマな女の子を書くのが好きみたいです、はい。

いつもコメありがとうございます、嬉しい限りです。これからも拙い文才ですがよろしくお願いしますっ!

高宮
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