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「蓮姫」
第十章 急変を駆ける

急変を駆ける 【肆】

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 皇眞は誰もが行けないはずの総隊長の部屋へとたやすく入った。否、当人がそうなのだから当たり前ともいえる。

 「―――お前……言ったこと、本当か?」
暁人の言葉に皇眞はふっと微笑んだ。
「……本当も何もならざるを得なかったってこともある。 父様がここの軍の長をしていた、……淘汰義兄さんでもよかったんだが……父様の築いてきたものを壊したくはなかったという意見もあったし、櫂もいるしな。 櫂は、父様の子供である俺に継いでほしいと言った」
「―――あの方と築き上げてきたこの柚蓮の軍を、他の輩にはやれませぬ。 あなたは蓮様に良く似ておられる、女でこそあるが、それでもあなたは蓮様の子供なのだ。―――あなたに継いでほしかった」
そう言いながら入ってきた櫂に、皇眞は笑んだ。
「櫂には、幼い頃から世話になってる。 本家の人間でもあるからな、―――知り合いであり、部下だった、という裏だ」
皇眞は言いながら、暁人と朔龍を見やる。

 「だが、そんな態度変えなくていいぞ。 今更変えられても可笑しいだけだ」

 「わかってるっつーの! 変えねえわ!!」
朔龍のツッコミに皇眞は笑って頷いて、櫂に言った。
「あの男たちの引渡しに来たのと、軍を見回るようにとの命令だ。 ―――で、言わせてもらうが……あの長は何だ。 あれで、軍隊を従え、国を護っていると思うと肝が冷える。 すぐに面談をした後駄目な奴らは切っていい。 ―――それと、女の受け入れも開始したんだから、同等の目で試験を受けさせるようにしろ。 女ということを考慮した上での同等ということを忘れるな」
その命令は十六歳の少女がしているとは思えないものだった。常に白吹の当主であるという意識が、皇眞えお〝長〟というものにするのだろうか。

 「それにしてもご立派です。 次の年が明ければ、あなたも十七になりますし、私は嬉しい限りです」
「―――そうか」
 櫂の嬉しそうな言葉に、皇眞が慣れたように頷いた。どうやら、毎日のように繰り返される応酬らしい。
 軍の二番目に偉い人物が皇眞に懇切丁寧な敬語を使っているというのが、まだ暁人たちにはしっくり来ない。そうしているうちに時間はすぐに過ぎていって、帰る時間となってしまった。

 
 「櫂、本家を頼む。 またすぐ母様の容態を見に戻る」
「雅様はお元気にしてらっしゃいます。 まだ、……精神面で傷ついておられますが、たまに笑われますよ」
「……そうか、忙しくなくなったら戻ると伝えてくれ」
「かしこまりました」
皇眞の言葉に櫂は頷いて、頭を下げる。

 皇眞は、豪華な左右に回転する椅子から机を飛び越えて、着地した。

 「行くのか?」
「ああ」
「―――…え、あ、ちょ、待ってって!!」
先に行った皇眞と暁人の後を朔龍が追って、その後をまた楓有雅が追おうとする。
 「楓有雅」
櫂は皇眞の小さな弟子となった少年を見下ろした。
「皇眞様を近くで見て、あの方に武術剣術を学べば、きっとお前は強くなるだろう。 そして、あの方と彩紅様を護れ。 次代の強力な白吹の兵士として」
皇眞が近くに置いている、それだけで絶大的な信頼がある。
「―――はいっ!」
 楓有雅はその重みと責任を肌で感じて、そして意志を持って頷いた。

***

 皇宮の楓有雅の手によって少しだけ生活感が見えてきた自室に戻ると、月夜から呼び出しが掛かった。 悲しいかな当主になった皇眞を今は何の疑いもなく呼び寄せることができる。
 彼女を部屋に招く名目なんて数えるほどあるのだから。
 
 「さくら、……仕事はどうだ」
「……問題ない」
「俺に嘘をつくとは、いい度胸をしているな」
「自分もだろ」
書斎で、自分に目をくれずひたすらに書面、書類を書いたり、判子をしている月夜を皇眞は呆れながら見やった。
「俺とお前じゃ体力が違う」
「―――…それを言われたら元も子もない」
「―――大体、今はお前のほうが大変だろう。 当主に、軍隊長に、裏まで。 どれだけの肩書きを持てば気が済むんだ」
言いながら万年筆を置いた月夜はふう、とため息をつく。
「父様はそれを全部背負って今まで生きていた。 父様にできるんだから、俺にできないわけない」
「―――俺?」
「……わたし」
つい外での仕様が出てしまい、月夜の咎める一言が漏れる。皇眞は言い直して、椅子へと座り込んだ。

 ふたりだけのときに「俺」を使うと、月夜は毎回そう咎める。――どうやら、素の皇眞でいてほしいらしい。

 「当主はどうだ?」
「……本家の奴らがいるから当主は成り立ってる。 あっちには甲珠と珠愛がいるし、啓や櫂もいるからな」
そうか、月夜は呟いて首を傾げる。
「じゃあ、軍隊長は?」
「そっちはまあ、そこそこか? ……今はあまり騒動は…起きていないし、……遠くだが隣にある別国も相変わらず大人しい。少しあるとすれば、馬鹿な兵士が多いってところか」
皇眞は桐生と呼ばれた男の顔を思い浮かべそう言った。
「……馬鹿?」
「わたしに暴言だ。 女なのに上にいることが気に喰わないそうだ。―――ま、それはどうとも思わなかったがフウを斬ろうとしたから、追い出した」
「そうか」
皇眞の言葉に、月夜は頷いて自分の席から立ち上がって皇眞のところに歩いてくる。 机に手をついて―――きっと、もう私情に成変わっているんだろう―――頬に手を添えてきた。 
 「裏は?」
厳しい目つきで声を潜めながらまたも囁く。

 裏、とは―――暗黙で刺客のことを指している。

 今はふたりきりだからか、心を許した月夜にはとことん枷は緩くなってしまっているようで。
 俯いて、震える声で言った。

 「―-―彩紅がどこに行ったかわからない……! わたしの生きる意味なのに、彩紅までいなくなったら……わたしはどうすればいいんだろう」

 苦痛に歪めた瞳は、今にも泣きそうで。
 それでも泣くことが許されていないみたいに、泣かない。当主だからもう弱いところなど見せられない。威厳があって、強くあらねばいけない。
 無意識に自分はそう思っていて、それが皇眞の泣かない理由だ。
 そんなことはわかっている。 
 
 でも、―――家族を失った痛みは、失いそうな不安は、いくら我慢しても消えなかった。



 ふわり、と月夜は皇眞を抱き締めてその額に口づけを落とす。
 「―――お前は、俺の前でも“当主”でいるのか? ……俺の前くらい、ただの“お前”でいてくれ」
それは遠回しに泣いてもいいという合図で。



 最近涙腺が弱くなったと皇眞は思った。だが、この馬鹿みたいに察しのよい恋人となった青年の前でならいいのかもしれない。



 皇眞は声を押し殺して、俯いた。

***

 涙は出ていないが、それが“泣いている”のだと月夜も分かったため、皇眞をまた抱き締める。
 月夜の懐に顔を埋めた皇眞は、歯を食いしばって渦巻く悲しい思いに抱きつく力を強くした。 泣くことでこの苦しみを発散できたら、どれほどいいか。 一時の感情に任せて泣くことはできるかもしれないが、泣こうと思って泣けないのだ。
 皇眞の感情が欠落していると、月夜も知っている。 ―――仲間に接触して、楓有雅が現れて感情が豊かになっているのは月夜も嬉しかったが、今回みたいなことは頂けない。
 そして、悲しみを痛みで屈服する皇眞のことも月夜は知っている。 それが駄目なことだと、皇眞もきっと分かっているだろうにそれを終わりにすることができないのだ。
 そのため今回も―――自分を追い込みそうで、傷つけそうで、怖いというのもあった。
 「さくら」
月夜は皇眞の髪をさらりと梳いて、ぽんぽんと背中を叩いた。
 「無理に泣こうとしなくていい。 泣きたいときには俺のところへ来い。 お前が壊れる前に、俺はお前を助けたい」
「―――…ああ」
その言葉に皇眞は小さな微笑をともしながら、頷く。
「最近、眠れているのか」
「……小さい頃からあまり眠れてない。 ……三時間眠れればいいほうだ。 最近は、それよりあまり眠れてないかもな……」
ゆったりと素直に答えた皇眞は、未だに顔を埋めたままだった。
 「―――俺の部屋に行くか。 さくら、眠そうだ。 ……俺の部屋で眠るといい」
「ん……」
幾分年相応の返事になって来たのは、睡魔が襲ってきたからだろうか。
「眠いか?」
「―――あんしん、したら……ねむくなってきた…」
拙くなったしゃべり方に、月夜は内心ドキリと慌てる。 「あぁ」と小さく返答して、動こうとしない彼女を抱き上げた。
 抱き上げた彼女は思ったよりも軽くて、そして自分という場所が安心すると言った彼女になんともいえない感情を覚える。 月夜は小さく息を吐いて、書斎をゆっくりと出た。
 誰もいないことを確認して、今は女となりえた皇眞を自室へと運ぶのだった。
 
 皇眞は睡眠をあまり取っていなかったのだろう。
 そして、多分彼女の眠りは極端に浅い。 自分の寝台へと寝かせて、寝やすいように特優隊の制服の上着を脱がせると、その部屋をゆっくりと出た。
 そして、皇眞の部屋をノックする。
 「―-―…はい…」
「皇帝だ。 楓有雅か?」
「………はい! …あの、皇眞様は」
楓有雅の言葉に、静かに人差し指を唇に当てる。 
「……俺の部屋で寝ている。 随分と仕事で疲れていたようだ。 お前、このことは黙秘だぞ」
月夜がくすりと笑むと、楓有雅はこくこくと何度も頷く。 察してしまったらしい。皇帝と皇眞様は……もしかして、と。
「皇眞の留守はお前が護れよ。 ―――しばらくしたら、帰るだろうから」
「お、皇眞様はっ…眠りすごく浅いです!」
楓有雅は情報を伝えようと早口で言うが、月夜は笑む。
「そうか、わかった。 お前も早く寝たらいい」
幼い楓有雅なりの気遣いにそう頷いた。
「はい!」
ある程度予想していた皇眞の情報が入ったが、月夜はそう返答して、皇眞の部屋を後にした。―――あの少年はどうやら、ちゃんと良いことを吸収して育っているらしい。 月夜は思いながら、皇眞のところに戻る。

 「―――さくら」
呟いて、彼女が寝やすいように毛布を整える。 そして、その額に口づけを落とすと髪の毛を撫でつけた。


 「何か事件が起こる前に、こうやって寝てくれたなら……俺も安心ができる」


 もうすぐ、何かが起こるだろう。
 それは月夜も予測できる嫌な予感そのものだった。

***


 そして。

 本家に戻り、当主の仕事をすると共に、白吹を護っていた皇眞に、知らせが届く。
 皇眞が彩紅の消息が掴めず―――焦燥を駆らしているときだった。

 「―――…皇眞様!」

 本家にいる者たちは女だが当主の皇眞に、蓮の時と同じく「旦那様」ではなく、名前呼びで定着した。

 「何だ?」
皇眞が蓮の部屋だった書斎で、仕事をしているとき、刺客数名と紅珠が飛び込んでくる。 皇眞は万年筆を置いた、その手首には軍の総隊長としての証を隠す包帯が巻かれていた。

 本家の者たちと共に現れた黒装束姿の甲珠が言う。



 「―――彩紅の居場所が判明したよ」



 その言葉に、皇眞は瞳の色を変えた。


 「本当か……!」


 とっさに低い声を出して、拳を握りしめる。



 ―――急変の事態はまた新たな急変を迎えた。
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