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 ←迎えた終焉 【弐】 →きっと、
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「蓮姫」
第十一章 迎えた終焉

迎えた終焉 【参】

 ←迎えた終焉 【弐】 →きっと、
 「……皇眞、起きて。 もう用意する時間だよ」
そう囁く甲珠の声で起きた。 浅い眠りからばっと目を覚ますと、皇眞は低く呟く。
「………すまない、すぐ準備をしてくれ」
「―――うん、分かってる。 君もね」
「ああ」
甲珠の笑みに答えて、皇眞は立ち上がる。 近くにいた楓有雅はもう刺客の服装へと変わっている。 その腰には、皇眞が渡した短剣が佩けてあるし、クナイなどが装着された帯も腰に巻きついている。
 皇眞も私服ではなく、戦いの場へ行ってもいいように黒い着物に、下穿を穿いた。 腰には自分の真っ黒の愛刀と、蓮から譲り受けた紅の長刀がある。 そして、楓有雅同様にクナイや毒などを常時装備させた帯をつけていた。
 皇眞は、自分の掌の包帯を取ってから―――まだ見ていられない傷口を隠すようにガーゼをそえて包帯を強く巻きつけた。出血しても大丈夫なように、きつく。
 戦っている最中に痛みでどうにかなっても、布で刀を固定してまで戦ってやるつもりでいた。 だから、腰の革袋には包帯や治療具も応急処置ができるくらいにはつめこんであった。
 
 「楓有雅、お前に戦いでは始めての命令だ」
「はい!!」
皇眞の言葉に真剣な表情で楓有雅は頷く。
「……東宮に入ってからは俺のそばに必ずいろ。 そして彩紅を見つけたら、誰よりも先に彩紅を助けて……彩紅だけを護っていろ。 分かったな」
「―――え」
「……分かったな」
「…皇眞様を護る―――には」
楓有雅はどうしても、皇眞を護りたいようだった。 護る、というよりかは皇眞の役に立ちたいという感情のほうが大きいのかもしれない。
「……お前は足手まといだ。 俺の身を護るのは、甲珠や珠愛で足りる。 お前は何が起こっても何を言われようとも、彩紅を護っていればいい」
「……わかり、ました」
「そう、それでいい。 俺は彩紅が助かることが一番嬉しいんだからな、お前は大役だ」
皇眞は笑って、楓有雅の頭をぽんぽんと叩く。

 そうしていると、皇眞のところにぞくぞくと出陣に同行する者たちが集まってきた。


 皇眞はぐるり、と見渡して口を開く。

 「わたしの勝手ですまないが、……これから彩紅を助けに行くぞ」

 皇眞は勝手と言うが、勝手ではない。
 彩紅だって白吹の一員で、蓮の残した―――花のように育てる大事な姫君だ。 決して甘やかさず、世間を知るように厳しく育てるはずだった―――まだ四歳と思って、蓮は引き伸ばしていたのだが、その蓮はもう亡くなってしまった。
 その意志も皇眞は継ぐつもりだった。
 雅姫は慰める担当なのだから、嫌われても怒り叱る担当は自分がやろう、と。

 「勝手ではありません。 あなたたち姉妹を護るのが私たちの役目です」
ある一人の刺客が威勢よく言った。こくこく、と他の刺客たちも頷く。
「そういうこと」
甲珠は笑み、珠愛も笑む。

 「でも、私と甲珠は“あなた”を護るためだけの存在だから、彩紅にもそういう存在ができてほしいわね」

 珠愛は堂々と、「皇眞だけ宣言」をする。 それは甲珠も同様で、きっと朔龍がいたのならこの事を皇眞至上主義と言うのだろう。だが、皇眞は意味深な笑みを浮かべてそれを流すのだった。
 珠愛は首をかしげるが、皇眞は声を張り上げた。

 
 「相手は卑怯な手を使うだろう。そうやって父様も陥れられた。―――だが、死ぬな。 何があっても、だ。 ―――生きることだけを考えろ。 生きて、彩紅を奪って、必ず帰る。 分かったな!!」


 「「「御意!!」」」


 皇眞のその命令に、皇眞は留守番を預かる櫂や啓を見やった。

 「母様は頼む。 この家の留守も」
「畏まりました」
「いってらっしゃい」
啓は戦えないので、家で不安に駆られながら留守をするのが常であり、―――櫂は表の上に立つ存在だから、裏の仕事はできない。明るみにでたらまずいため、だ。
 だが、皇眞は基本顔を出さないで総隊長をするという前提と、白吹当主には権力と暗黙の了解というものがあるから、裏の刺客をやることができる。 前、顔を出してしまったのはその場の流れと致し方ない部分もあったが、あれは例外だ。

 皇眞はこうして屋敷を出た。

 目的の場所、東宮本家へと向かって。

***

 もう少しで、彩紅に会える。
 それだけで焦燥と不安と、期待が入り混じった感情が皇眞を襲った。 あの子は無事なんだろうか、何かされていないだろうか。姉として、すごく不安だ。
 まだ彩紅は四歳になったばかりの幼い子供なのだから。 まだ、これから知っていく段階の何も知らない状態なのに、何かの恐怖がトラウマについてしまったらどうしたらいいだろう。
 皇眞も雷というトラウマがあるため、その怖さを身を持って理解できる。 そんなものを植えつけてしまったら、彩紅がかわいそうだ。

 皇眞は唇を噛みながら、東宮の管轄する地帯に入って足を止めた。

 「……皇眞」
すぐ横で甲珠の声がする。 辺りは暗いが、刺客として夜目が利きやすいこともあるし、暗闇に慣れてきたこともあり甲珠の顔ははっきりと見えた。
「ああ、入った……敵はいない。 今来るのも、予想外だろうからな。 だが、本家の警備は強いだろう」
皇眞は言いながら、存在がばれないように町を迂回し、森林のルートを進みながら言った。
「―――本家は広いため、町のはずれにある。 森林からは遠回りだが、行けなくはない。 町には入るが、深夜だし……刺客なら人に見つからないことくらい心得ているだろう?」
「勿論だよ、我が主」
甲珠はふっと挑戦的に笑んだ。 皇眞は頷いて、ばらばらに周りからついてくる信頼できる白吹と椎名の部下たちの気配を掴む。

 ―――全員、いるな。

 皇眞はもう一度確認して、大木を跳んだ。


 東宮の敷地に入ると、皇眞はぐるりと視界を巡らす。
 あたりは暗いが、ところどころ電気がついている。 東宮も白吹と似たようで、深夜は閑散としているらしい。 逆に、時雨や烏摩、皇都などは、深夜でも賑わうくらいに明るい。
 時雨のところには芸者の店もあったりするため、夜のほうが賑わっていたりする。
 ―――何はともあれ、民には見つからないな。 
 東宮もばれたくはないのは一緒だろう。 白吹の場合、証拠隠滅(いんめつ)に長けている部分もあるし、ある程度派手にやっても平気だ。だが、東宮は違う。
 所詮雇いの刺客だ。―――対処の差は歴然である。

 ―――白吹に……彩紅に手を出したんだ……容赦はしないさ……。 上流からもいられなくしてやる。

 恨みをかられるのには慣れている。 蓮の時代から、憎悪など醜いものに苛まれてきたのだから。 そしてその時に、全力を尽くすことができれば。
 「―――……着いた」
皇眞は憎々しく殺気づいた呟きを漏らす。 その声は、部下の肝が冷えるほど。―――それは彼女が女と知っていても、平伏してしまいそうになるもので。 本当に視線だけで人を殺せるんじゃないか、と思えるほどの。
「お前たち、行くぞ」
民家の屋根の上から、その下を見下ろすように。
 皇眞は東宮の広い敷地を囲む塀の屋根部分へと着地した。
―――容赦はしない。
ざっと、地面へと着地すると、まっすぐに小屋のほうへと歩こうとする。

 だが。

 ビュンッ、と風を切る音がする。 皇眞は刀さえも抜かず、それを素早い蹴りだけで弾き返す。 ブーツも、隠し刃があるくらいの戦闘に特化したものだ。刺客をする時だけに穿く、人殺しのための靴なのだが。
 「―――甲珠、珠愛、楓有雅と近くにいる五人は俺のあとにつけ。 その他は雑魚を殺せ。―――そうしたら、俺のところへと来い、行き先はあの小屋だ。 たどり着けなかったら、できるかぎり雑魚を始末しておけ」
命令を残すと、短い返事が返ってくる。
 皇眞は頷いて、クナイを投げる敵の刺客を睨んだ。 歩きながら、愛刀を抜いた。 黒い刀身は暗闇へと同化する。相手からしてみれば、どこに何があるかさえ分からない。
 皇眞は目の前に来た敵を何の迷いもなく一閃した。 それは、ある時みたいな―――正しく本気の人を殺す刃だった。

 「う、ぁ……!」

 暗闇に、何故か皇眞の桃の瞳は生える。 ギラリ、と光るその瞳に、東宮の刺客たちは恐れさえ抱く。 皇眞は腰からクナイを抜いてすばやく投げた。 ずさり、と刺さったそのクナイを倒れた体から抜き取って、―――味方に掛かったその敵に、見向きもせずに投げる。 首を見事に突き刺さったそれは、その体躯を横へと崩す決定打となった。
 「皇眞様、感謝します!」
「―――ああ、気をつけろ」
「はい!」
その味方の青年も敵を伏せながら返事をした。 彼らも個々で実力を持つ者たちなのだ。

 その彩紅がいると思われる大きな小屋と言えない建物まで近づくにつれて敵の刺客たちの数は多くなっていく。

 「彩紅はどこだ。 答えないと容赦しない」
皇眞が冷ややかに言った。
「―――答えろと言って答える奴がいるか!」
敵がそう叫んだ。
 皇眞は無表情でくい、と首を傾げると目にも留まらない速さで男を斬り裂いた。 ドスン、と腹に隠し刃も含めた踵落としも追加して。
断末魔が消え去って、また皇眞は言った。
「彩紅はどこだ」
今度は無言が返ってきた。 近くにいた手を捕まえて刀で薙(な)いだ。どさりと男は倒れこんで皇眞に生々しい紅(あか)が散る。 
 こんな姿を部下たちに見せるのは、少々危ないような気もしたが―――彼らも苛立っているようでさほど変わった気配は無かった。ただ、甲珠と珠愛が心配しているのだけは分かるが。
 とにかく部下が平気ならばいいだろう。―――本当は、もう少しだけ遠巻きに見られると思ったのだが。
 
 「彩紅はどこだ」

 三度目でも、誰も答えない。
 皇眞は刀をくるっと一回転させてから、近くにいた刺客に狙いを定めた。 その刺客は恐怖に怯え、がたんと膝を落とす。
「お、おお……教える!! だから、命だけ、は―――!!!!!!!」
皇眞が斬ろうとした瞬間その男は叫んだ。 皇眞は口角を吊り上げて、その男の襟首を締め上げて引き寄せる。
「―――命拾いしたな」
低い声で笑ってやると、皇眞は後ろの部下へと目をやった。
「お前ら、あとは殺せ。 要らん」
そう言うやいなや、甲珠を筆頭に―――激しい乱闘が始まった。 白吹と椎名が差をつけて、だ。
 「どこにいる」
皇眞の容赦ない追求に、その刺客は小屋を指差して中の詳細まで説明する。 地下のことも吐いて、その奥にリーダーと一緒に彩紅はいるとまで吐いた。 そこまで死にたくないらしい。
 後ろからは「裏切り者」と罵られている、が。
 「―――そうか」
上がり下がりの無い音程で、皇眞は呟いてその男を一閃する。
「ぐあ!」
「―――…なっ、…殺し……」
情報を明かした刺客を斬り捨てた皇眞を、敵は口々にそう呟く。 情報を言っても、結局は同じ運命を辿るんじゃないかと。
 皇眞は―――裏の仕事仕様の感情の無い視線を―――敵の男たちに向ける。
 
 「―――白吹に手を出したお前らがいけないんだろうが。 ……それなりの覚悟を持っているんだろう。 刺客の世界は報復だ、―――俺の白吹に手を出した。 俺がお前らを生かして返すと思っているのか」

 全てを嘲笑するかのように皇眞は言いながら、走り出した。
 もはや皇眞を恐れて刃さえ向けない敵たちが多い。 あとは、ここに残る部下たちがやってくれるだろう。 先に進むときに邪魔な奴らだけを容赦なく伸しながら、その彩紅がいる建物へと走った。

***

 皇眞はその豪華絢爛な建物の扉の前までつく。 睨み上げるようにしてみて、容赦なくその扉に回し蹴りを食らわした。 隠し刃もあるため、盛大に壊れた木製の扉は埃を立てて前へと倒れる。
 後ろには甲珠と珠愛。 楓有雅。 その他、部下五人。 あとから敵を始末してきて付いてきた刺客たち数人。
 「楓有雅。 お前は俺たちとは別行動だ。 場所は同じだが、隙を見て彩紅のところまで行け。―――俺がどうなっても妹だけは護れ、分かったな」
「―――はい!」
皇眞の言葉に楓有雅は頷いた。
「よし、行くぞ。 ―――この中は敵が多いらしいからな。 各自、気をつけるように。 目的の場所は地下だ、早く行きたいから足止めはお前らにまかせる」
後ろにいる部下を見やって皇眞は言う。 刺客たちはそれぞれに頷いて、武器を構えた。
 皇眞はさっそく奔ってきた刺客の敵たちに向かってクナイを投げ込んだ。
 「―――…一掃する」
倒れたそれから引き抜いたクナイに毒を塗る。 もう片方には愛刀を握りこんでいる。 傷口が開いて血は流れているが、もうこの際関係ない。
 毒の塗られたクナイはかすっただけでも苦しんで、動けなくなる。 しばらく経ったら命はない。
 皇眞がクナイで一回薙いだだけで、敵の戦力はほぼ全壊していくのだった。
 「毒だ、お前ら触れるなよ」
後ろから現れた敵をクナイで突き刺しながら、次にかかってきた敵を刀で斬る。 そうしながら平然と部下にそう命令する皇眞。

 その建物は狭いため、すぐに地下へと続くと思われる階段が現れた。
 薄暗い、やっと人が二人くらい同時に下れるくらいのその階段を降りていくが、向かってくる敵もいるのでごちゃごちゃになってしまいそうだ。
 「俺が先に行く」
皇眞はすぐに宣言すると、毒の塗られたクナイを一回、回(まわ)して逆手に持つ。
「ここに数人残れ。 この階段を降りさせないようにしろ」
「「御意」」
幾人かがそう返事をしたのを見届けて、皇眞は階段をゆっくりと警戒しながら降りて行った。
 「―――来た」
徐々に降りながら、小さく呟く。 と、数人の人数が駆け上がってくるのが見える。 ひゅんと音を立てて飛んできたクナイを皇眞は刀で弾いた。 足場の悪いところでは蹴りも食らわせられないし、刀だけに頼ることになる。
「いたぞ! 白吹だ!!!」
大声で居場所を知らせる声が響いて、チャキンと武器を出す音が聞こえた。
 「甲珠、珠愛」
皇眞は一番の部下の名を呼んだ。
「「―――御意」」
慎ましく甲珠と珠愛は同時にそう笑んで、クナイを皇眞の後ろから飛ばす。 何人かが立ち止まったか、倒れたかして、皇眞のところまで人影は来なくなった。 皇眞は笑みながら、ここぞとばかりに降りて行った。 出くわした刺客は三本のクナイを受けている、その体を問答無用で前へと蹴りつけた。 連続して倒れていく刺客たちを見届けて、皇眞は下まで降りていく。
 「う、ぁ……」
刺客がやってきた皇眞を見上げて、恐怖の色を見せる。 容赦のないそれに、戦いを主にする刺客でさえ。
「た、助け……」

 ザンッ…

 倒れていく、敵の男を見やった。
 立ち止まったまま、皇眞は無表情で残りを倒していく。
 全てが階段のところからいなくなってもまだ、皇眞は動かなかった。

 「皇眞……?」
「―――ん?」
「どうしたの……?」
「……何が」
その応酬に甲珠は顔を歪めて、「だって―――」と続ける。
「だって―――悲しそうな表情(かお)してる」
甲珠の言葉に、皇眞は自分でもびっくりして無言を貫き通す。


 きっと、わたしはこのまま刺客を続けるだろう。
 部下たちも覚悟を持って戦いに望んでる。 人道をはずれた刺客は刺客なりに、覚悟を持って望んでいるのだから。
 わたしについてきてくれる部下たちは何があっても護ろうと決めている。 蓮の遺志を継いで、そして自分の思いもあわせて。それが蓮の皇眞に伝えた白吹の理念なのだから。
 それでも、わたしの手は汚れている。
 たくさんの人を殺してきた。 こんなにも無残に、血で汚れている。
 本当なら、表の世界で生きてはいけないんじゃないだろうか、そう思えるほどに。

 わたしはそんな身で、――――“彼”を好きになってもいいのだろうか。 愛してもいいのだろうか。
 こんなに汚れてしまった手で、あの強くて綺麗なひとを触れてもいいのだろうか。 傍にいて、平気なのだろうか。

 きっと、今のわたしは家族が大事で、部下が大事で、白吹が大事だ。
 あのひとを置いて、死ぬことだってあるかもしれない。
 自分でもわからないそれを含めて、彼は………想ってくれているだが。 彼は、決定的な言葉を口にはしない。それでも、雰囲気で、全てで、自分を愛していると伝えてくる。
 まだ自分にはその感情が欠落しているらしく、くるしいけれど。
 でも、いつかそれを想うときがくるならば、きっと相手は彼なんだろう。

 だからこそ。

 わたしは彼の傍にいていいのだろうか。
 こんなにも汚れてしまったわたしは、彼にあんなに想ってもらう資格など無い気がする。

 それでも、

 そんな矛盾した感情が過ぎる。

 ―――…それでも、………月夜…。

 もう遅いのだ。 自分でも驚くほどに、お前はわたしの中に居座っているのだから。
 もう遅い、―――わたしは……。



 ガンッ…
 皇眞はその地下の扉を蹴破って、その中へと入って行った。

***

 「おねえさまぁっ!」
部屋に入って一声は、彩紅の声だった。 小さな手を後ろに回されて縄をされ、腕もがんじがらめにされている。 口を塞がれていないのは幸いだろう。
 少しだけ汚れて傷ついたような身体、泣きながらこっちを向く彩紅。
「うるせえ! 黙ってろ!!」
彩紅のまわりにいる数人のうちの一人がそう叫んだ。 びくっ、と身体を揺らして彩紅は押し黙る。
 妹に与えられる暴挙を見て、皇眞が黙っているはずがなかった。

 「殺す……」

 小さく呪うように呟く。 密に呟かれた言葉に殺気が滲み出ていて、味方の背筋さえもひやりとした。

 「そこの女が白吹皇眞か! ―――俺らの今の主は、お前を女だってばらそうとしていたが、どうイカれたかお前がばらしちまったからなぁ」
リーダーらしき男がそう言った。
 皇眞や、甲珠たちが武器を構えて動こうとしたが―――あちらには人質がいるのだ。
 「おっと、動くな。 このガキがどうなってもいいのか?」
後ろで、クナイを首元に当てられる彩紅の姿が見える。 恐怖に怯える目だった。 皇眞は部下たちに待機の命令を出して、そのリーダーとなる男や、その部下たちを睨んだ。
「賢明だな。 俺らの仕事は白吹皇眞を殺すことだけだ。―――まあ、藍園寺はお前の身柄がほしいみたいだが、お前が死ねばあきらめるだろ。 後からの合流だし、今お前をここで殺す」
その男はくくっ、と面白そうに笑んでそう言った。
 「藍園寺が欲しいのは、“俺”だろう? その俺を殺して、お前らが生きて帰れるとは思えんがな」
皇眞は言って、カチャリと武器を鞘に収める。
「知らねえ、俺らのほうが強いに決まってる」
「めでたいな、そう思えるならそれでいいが」
その男の言葉に、皇眞は冷ややかな嘲笑をした。
 「お前っ……!」
やれ、と彩紅を掴んでいる刺客に命令するが、皇眞が口をはさむ。

 「いいのか! そこで妹を殺したら、俺への取引がなくなるぞ? 今なら妹と引き換えに、俺をそっちにやらんでもない」

 皇眞は言いながら、別行動で隠れている楓有雅を見る。
 彩紅を助けるんだぞ。
 声に発さないで、楓有雅にそう伝えた。 楓有雅はしっかりと頷く。

 「武器を捨てろ」
男はその皇眞の意見に乗り気なようで、そう言った。 皇眞は後ろの止め具をはずすのと同時に袋から毒を一式出してから、その帯を外して、仲間のもとへと蹴る。 下穿のポケットに突っ込むと、刀を二本とも甲珠に投げた。
「そう言えば、お前は女だったなぁ? 女ってことは声も女なんだろう? 拝ませて欲しいね」
後に続くのは、じゃねえとこいつを殺すぞ、だろう。

 「―――わたしを殺すというのに、わたしの声を聞きたいのか」

 素である女の声に戻って、皇眞はそう馬鹿にしたように言った。
 「こっちへ来い、白吹皇眞」
言うことを聞いた皇眞にニヤリ、と男は笑う。 皇眞は動じずに一歩一歩と歩いて行った。
 そして下っ端の刺客たちが後ろに走っていって、甲珠たちに刃を突きつけるが同時といったくらいに甲珠たちも刃を向ける。 あちらはあちらでいつ攻撃してもよい状態になっている。 お互いがお互いに刃を向けた一触即発の状態だ。
 楓有雅はそこにはおらず、別行動で影に隠れているから彼らには見えいていないが。
 
 傍に行くと、リーダーの男がくつくつと笑んだ。
 その手は決まって皇眞の頬へと伸びる。
 「皇眞!」
「おねえ、さま……!」
皇眞より周りに人間がそれに悲鳴紛いに皇眞の名前を叫ぶ。
 「近くで見るとお前、綺麗だな。 殺したくなくなってくる」
「―――だろうな、男どもはみんなそうだ」
平然としながら皇眞は言った。 彩紅を離せ、懐から毒の注射器を取り出して呟く。
「いいだろう」
彩紅が無理矢理立たされてどたんと前へ出される。 皇眞は周りに関係なしに、彩紅のところに行って彼女を抱き締めた。 そしてどこからともなく楓有雅が現れ、刺客をぶち倒してやってくる。
 「おね……おねえさま、おねえさまっ……おねえッ……っぐす」
「―――あぁ、もう平気だ。 何があってもわたしが護ってやる。 だから目を閉じて、耳を塞いでいなさい」
「う、……うんっ…」
「皇眞様!」
「ああ、彩紅を頼む」
皇眞は大泣きをしながらも言いつけを守る彩紅を楓有雅へと渡したところで、後ろからぐいっと腕を引かれた。
「フウ! 逃げろ!!」
皇眞が叫んだ。 楓有雅は彩紅をすぐに抱き上げると、後ろへと退くがすぐに刺客に囲まれた。 だが、楓有雅も短剣を構えてちゃんと彩紅を護っている。

 「いいのか! お前ら! そいつらを殺したら、俺を従わせる材料が無くなるぞ」

「はっ、お前を痛めつけてから殺すのもいいかもな」
お前ら、殺るなよ。 
男がそう命令して楓有雅のまわりにいる刺客たちは動かなくなった。
「その餓鬼、確か俺の下っ端だったはずだが?」
「わたしが拾った。今はわたしのものだ」
「―――はっ、楓有雅ぁ! 味方を裏切ったらどうなるかわかってんだろうなぁ」
男の鋭い目は、楓有雅に向けられた。
「お前の相手はわたしだろうが」
手前から足蹴を食らわしてやる。 楓有雅を殺そうなんてさせてやるものか。
 男は呻いてから、反射的に皇眞を殴りつける。 が、皇眞も腕で防御してその場に踏みとどまった。
 「お前の妹と楓有雅はいつでも殺せる状況だってこと、忘れんなよ。 ―――そうそう、こんなこともあろうかとこんなものも用意したんだぜ?」
その男は狂気の笑みを灯しながら後ろにいた刺客に顎で何かを命令する。
 しばらくして、奥の鉄の扉から子供が連れてこられる。 縄で縛り付けてあって、口も布で縛られていた。

 「お前の統括する地域から連れてきたガキだ。 またひとり人質が増えたなあ。 しかも、お前のせいでこいつの家族は死んだぜ?まあ、部下が勝手にやったことだが、ここに来て良い材料に―――」

ぐさり、と鈍い音がした。 皇眞の靴の仕込み刃がその男に刺さったのだ。
皇眞はひたすらに殺気篭もった目つきでその男を睨んでいる。
 「ぐ―――っ、この野郎!!!」
「―――お前ッ……、その子供の家族を殺したのか……!! わたしの民(かぞく)をそんなくだらない理由で殺したのか!!!」
この場で初めてに近いくらいの皇眞が声を荒げた瞬間だった。
 男は皇眞を殴って刺客全員が皇眞を取り囲んだ。 皇眞も白吹の護る民の人質という存在ができてしまい、抵抗できずにされるがままになり。
 両腕を掴まれた皇眞は仕込みの刃が入った靴を脱がされて脚にクナイをつき立てられる。 そのまま壁へと押し付けられて肩に剣が貫通し、壁へと突き刺さった状態で、はりつけにされる形になった。
 「皇眞……!」
甲珠の自分を呼ぶ声が聞こえる。
 こふ、と血を吐いてから、動くほうの手で口元を拭った。

 「お前、仕込みまで持ってたのか。 つくづく油断のない女だな!」

 バシッ、と見せしめのように叩かれるが、皇眞は悲鳴も上げずただ無言でそれを受ける。 そうして、男は剣を持った。
 「一気に殺すのは惜しいな。 ―――俺をコケにした分、痛めつけて殺してやる!!」
それは地獄のような宣告でもあったが、皇眞はそれさえも感情のない瞳で見つめていた。

 ―――わたしを殺せるとでも思っているのか。

 それは何をされようが死ぬことだけは絶対にないという揺るがない自信と信念によるものだ。

 そうして、男が叫んだ。
 「そういえば、お前は女だったんだな。 辱めにでも、遇ってもらおうか」
馬鹿にしたように笑って、ざんっ……と胸元を斜めに一閃される。 心臓には達していない。 一息に殺さないのが、今目の前の男の目的なのだから。 苦しませて、殺すという、その目的の。
「―――…っく…」

 ―――三度目、か。

心の中でぽつりと呟く。
三度目か、こうやって胸元を斬られるのは。 一番最初の過去のものは、酷く深くて致命傷だったが、今回のはそうでもない。 過去の傷は産物とも言えるから、その醜さは今でも残って自分の身体へと刻み込まれているが。
 肌蹴た着物の上着がはらりと落ちる。 帯に助かってそれは、腰元で止まった。―――基本で着ていた黒い着物も無残に斬られ、肩口から横腹まで一閃されている。 見る見るうちに赤くそれは染まって、皇眞の服を侵した。
 白い肌と、すれすれまで見えかかっている胸元よりも―――その血の色と、死にそうなその光景に、別の焦りが仲間たちを急かす。

 皇眞は憎いという睨みを、目の前の男に向けた。
 憎い。 自分を汚そうとしているそれよりも、まだ未来のある子供の家族をくだらない理由で―――皇眞を殺す道具にするという理由だけで―――手にかけたこの男が。その部下が。


 そうして、皇眞とその男も一触即発となっている時に、新たな来客が姿を現す。


 「―――東宮、……俺はそんなこと許可した覚えはないけど?」

 その笑っていない笑みで登場したのは誉だ。 その笑みがまさしく恐怖をもたらす。
 「―――貴様……、藍園寺誉」
「―――何やってちゃってくれてんのかな? 俺、皇眞を傷つけろとは言ってないような気がするけどなあ」
にこにこと、この現状では絶対に浮いているものだ。 だが、その声音は見るからに殺気が迸っ(ほとばし)ている。
 「もとより、今の主がお前と協力しただけであって、俺には関係ねえさ。 そして、東宮は白吹の当主を殺したがってる。 前の白吹蓮が死んだ今、当主はこの女だ。 こいつを殺すのが今の俺らの仕事ってわけだ」
男は言いながら、皇眞の胸の傷口に爪を立てた。
「……ぅ…ぁ」
それはさすがに痛かった。 皇眞は顔を少しだけ歪めて、小さく呻く。
「いいねえ、その声。 もっと聞かせてほしいもんだ」
愉しそうに笑う男の声に、誉の声が重なった。

 「じゃあ、俺と東宮は交渉決裂ってことか 。じゃあ、―――お前ら殺していいってことね」

 誉はあっさりと反旗を翻して、剣を抜くと近くにいた刺客を斬り裂いて踏みつけた。
 「―――お前、……裏切るのか!!」
「裏切るって……俺、仲間になったつもりないし。 てゆうかー、利害関係の一致でしょ? 今、利害も糞もないじゃん? 俺、皇眞を殺せなんて言ってないわけだし。 むしろ、殺すなって言ったような気がするんだけどな―――!」
どす、と鈍い音を立てながら次々に刺客を殺して行った。

 憎いと思っていた相手だが、今考えてみると藍園寺は最初の―――自分に対しての暴挙以外は関係があまりないように思える。
 蓮を殺したのは東宮の刺客だと分かった。 彩紅を攫ったのも、東宮だ。 
 皇眞が欲しいがために、藍園寺は牢を抜け出して東宮と共闘しようとしたものの、皇眞を殺させそうになって今はあっさりと決裂の意を示している。
 ―――ただ、ひねくれているだけで、
 案外、―――自分にした暴挙を覗けば―――それほど酷いことをしているようには思えない。

 だが、今は好都合だ。
 皇眞が少しだけ口角を吊り上げた。

 「―――っ!!! お前ら、人質と白吹の妹を殺れ!!!!」

 男は怒り狂ったようにそう叫んだ。
 「―――っ、彩紅! フウ!」
それに、かわいそうに巻き込まれてしまった子供も、だ。
 
 皇眞は荒い息を飲み込むようにして、歯を食いしばった。
 壁に身体を固定するように突き刺さった剣に逆らうように、自身を下へと引きずる。 気持ちの悪い、肉を引き裂く音と激痛を堪えながら、壁から離れることに成功する。
 それと同時に走り出して、そして叫ぶ。

 「―――全員、戦え! その場にいる敵を殺すんだ!!!」

 皇眞は叫んで、すぐに彩紅と楓有雅を見やった。
 「―――フウ! すぐ行く、持ちこたえろ!! 彩紅!! まだ目閉じて、耳を塞いでいるんだ!」
楓有雅が頷いて、彩紅を抱き込んだ。 彩紅は言われたとおりにぎゅっと目を瞑って、耳を塞ぐ。 皇眞はそれを見てから、まず人質になってしまった少年のもとに行く。 クナイが突き刺さったままの脚で、皇眞は走る。 その少年が刺されるその寸前でその少年の間に滑り込んでその少年ごと転がった。
 すぐに敵は追ってくる。そこにあのリーダーの男もまざっている。
 「少年、平気か!?」
だが、その少年の安否の確認も忘れずに皇眞は言った。
「―――………ぼ、く……」
泣きそうな恐怖に怯える声だった。
「大丈夫だ! わたしが護る! だから、わたしの傍にいろ!!」
皇眞は使い物にならなくなっている肩を無理に動かして、その少年を抱きこんだ。
 一気に雪崩れかかってきた刺客を脚から引き抜いたクナイだけで迎え撃つ。 片手と片足を使えなくなって、子供を庇いながら戦うのは―――きついかもしれない。
 そして、数人の刺客をやっとの思いで倒したとき、後ろからきた―――リーダーである男の剣に反応が遅れた。

 ―――やばい。

 そう思って、とっさにその少年を庇う。

 が、その衝撃は来ず、そして次に視界に現れた光景を凝視する。


 誉が、皇眞を庇っていたのだ。


 「―――誉!!」

 つい、名前で呼んでしまった。
 それに、誉は―――今とは不釣合いな笑みを浮かべて、笑う。
 「……俺、なんであんた庇っちゃったんだろ。 ……てゆうか、あんたにそう呼ばれて心配されんだったら、―――正攻法で攻めるのもいいかもって今思った」
「馬鹿か! 今、そんなこと言ってる場合じゃ……!」
「ははっ……、結構寝返りって大事だったりする……? あんた斬っちゃったりしたけど、俺の気持ち歪んでるけど本物って証明できた?」
誉は背中を一閃されたのだ。 そして、後ろから敵の第二陣が来る。

 「お前、黙れ! わかったから!!」

 誉の気持ちは分かった。
 誉が言うとおり、歪んでいるが、自分への気持ちは本当だったのだと―――命を投げ打ってでも平気なのだということは―――分かったから。
 「お前、死ぬなよ! 殺すなら、わたしが殺してやる!」
「いいねえ、この期に及んでその言葉。 ますます惚れる」
よほど深かったのか、誉は皇眞の横にどさりと倒れこんだ。





 「ははははははははっっっ!!!! あの白吹と藍園寺を殺したとなったら、俺の裏の世界での名声も広がるなぁ!!!」




 愉悦を帯びた狂気の声が響く。

 「―――ッ…!!」
 ―――この男が!!
 皇眞は悲鳴を上げるどころか、その男を睨んだ。



 だが、初めて―――怖いと思った。 


 死に対してではない。 自分がいなくなったあとの、仲間や家族、部下たちのことを思って。
 彼を思って。

 
 その瞬間に弾けるように膨らむ。
 月夜への―――――――――――――――――感情が。
 

 あなたは許してくれるだろうか。
 こんなことになって、本当に大切さが分かるなんて。
 わたしは、あなたよりも―――民(かぞく)や、仲間を優先してしまったというのに、なるのに。
 それでも思い出してしまうのは、彼なのだから。


 皇眞はできるかぎりのことをしようと、誉を手荒だが遠くへと押しやった。 彼まで殺されたら、―――やっと和解のようなものができたのに―――たまったものではない。
 振り上げた剣を見切りながら、クナイを握り締めた。この際、腕はどうなってもいいということにする。

 

 振り上げた剣がクナイに触れる直後、凄まじい破壊音と共に地下の―――扉というより―――壁は破られた。






 驚いて、その男の剣の手は止まる。
 助けられるとは思わなかった。


 だって、見えたのは―――愛しいと再確認したそのひとと、軽口を叩いていた仲間だったのだから。


 ―――月夜……っ!


 名乗ってはいけない名前だ。 狂おしいほどのこの感情に飲まれないように、皇眞は心の中でその名を叫んだ。
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~ Comment ~

注意書き~!

第十一章三話目には
流血表現あるので、心して読んでくださいませー。

今回は忙しいので、
誤字とかあったらお知らせお願いします~。

あとで文脈とか直すかもしれませんがその時はまた
連絡しますっ。それでは!

今、「それでも、生き続けるこの世界で」を
パソコン内で執筆中。
そろそろセザール編もパソコン内で始動するかも・・・
あああ、ほんとサイトにupするの遅くてすいませんんん。

気長に待っていてください!(>~<)

高宮
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