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「蓮姫」
第十一章 迎えた終焉

迎えた終焉 【伍】

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 ちりちり、と月夜の背中からは黒い残り火が散っている。その腕にも。
 腕に抱いた皇眞にだけはその炎は無意味になる。 彼女だけを護るように。

 「―――主、上……?」
「話はあとだ。 なぜ、皇眞は血を吐いた。 外部の怪我のせいではないだろう」
月夜は追求するように、知っていそうな白吹の者である甲珠や珠愛を睨んだ。
「―――皇眞は、今までの過労と精神的ショックでもう身体の臓器もぼろぼろなんだって。 ストレスの一種によるものらしい。 皇眞は言っても聞かない。 倒れるまで動き続けたんだから」
甲珠の言葉に月夜は苦い顔をした。
 確かに彼女は自分の思ったことに対しては周りが何と言おうとやった頑固者だった。 月夜でさえ言う事聞かないときだってあるのだから。
 「皇宮まで運ぶ。 ―――皇眞の部屋で寝かせる。 医師は呼べるか?」
「―――白吹に専属の医師がいる。 ―――君たちはこの場の掃除だよ。 一人だけ怜楊のところに使者に行って」
甲珠は命令をして、自分の腕の中にいる少年を見やった。
 皇眞が託したんだから、きっと悪いようにしないのだろう。 この少年も一緒に皇宮に連れていったほうがよさそうだ。
 「皇眞の近くにいた者たちも皇宮へ来い。 ―――もう東宮は軍の兵士が尋ねている。 名家から降ろすし、櫂も相当怒っているから取り逃がしたりはしない。厳罰に対処するだろう」
月夜は言いながら皇眞を抱き上げた。
 胸元は斬られて、肩もむりやりに剣を抜いたのだろうか……痛々しいことになっている。 腕も包帯から血が滴るほどになっていた。
「―――さくら」
また小さく愛称を呟く。


 お前が死にそうだと思うだけで、頭がおかしくなる。
 俺をこんなに弱くしたのは、本当にお前だ。
 だから、生きてくれ。 死のうとなんてしないでくれ。
 “化物”の俺を、―――全てを知った上での俺を愛してくれるのはお前が最初で最後だから。お前だけしかいないのだから。
 

 「全員退避。 皇宮に、日が昇らないうちに戻るぞ」


 月夜の命令で、全員が地下を上り始めた。

 こうして、影で起こった―――白吹と名家二家による戦いは終わりを告げる。
 のちに、藍園寺は降伏という形になり今までのことを詫び、元の四家の協力関係の同盟に賛成。 五家になったことになる。 東宮との共闘の罪は執行猶予付きでの判決となり、しばらくは皇帝である月夜と白吹、時雨が監視することになった。
 東宮は、名家を降ろされることになり―――計画を主犯した東宮当主は投獄。 それに関わっていた全ての一族の人間が厳しい処罰を受けることになった。 なお、命令されていた刺客たちは裏の世界で全てを抹消される。


 こうして、何も変わらぬ毎日のようにそれは終焉を迎えつつあった。






 ただ不安の残る―――――――一点を覗いて。



***


 「―――まだ目ぇ覚まさないのか?」
 昼間、恒例になりつつある月夜や、暁人と朔龍、甲珠たちの訪問だ。
 暁人の第一声に―――その部屋にいる楓有雅と、彼らが皇宮に戻ってから呼ばれた怜楊は頷く。 二人ともつきっきりに等しい状況だ。 女なので、そっちの方面としての世話は珠愛がしているため、彼女もその場にずっとそこにいた。
 
 「身体が外も中もぼろぼろだったのは明らかです。 今、昏睡しているということは彩紅様が助かったからの安堵もありますでしょうし、張り詰めていた糸が切れたんでしょうね」

 怜楊は言いながら点滴を調整している。
 皇眞の周りには医療器具が揃っており、点滴が何個もその細い腕に繋がっていた。
 
 皇眞は意識を失ってから今のこの時までずっと昏睡状態が続いていた。 まるで死んでいるかのように、だが生きていることは確かで医師の怜楊が言っているのだから問題はなかった。
 だが、ここまで昏睡が続いているのは―――やはり、外部に受けた重傷の傷と、蓮の後を継いで当主となったための過労、そして蓮を失ったり彩紅が攫われたという精神的ショックや苦痛によるものという推測だった。
 いろいろなものを併発しているのは確かだったが吐血の原因は―――ストレスによる胃の損傷だった。 それも、寝て安静にしていれば治るものだったが、これからまた発症する可能性もある。
 そんな危険を孕(はら)んだまま、まだ彼女は眠りから覚めていない。



 出会ってから―――目まぐるしく回る日常に落ち着いて考えたことはなかったが、もうすぐで一年が経とうとしている。 皇眞もそうだが、月夜も暁人も、朔龍も、自分の誕生日を祝うことすらなかった。
 その存在すらも忘れるほど忙しい日々だった。



 いくら呼びかけても返事は来ず、身体を揺すっても起こす気配はない。
 その現状が、―――皇眞がどれほど自分にたくさんの苦痛と過労と強いてきたのかを周囲の人間に伝える。
 やっぱり。
 と、誰もが思う。 白吹の当主は、自分を厭わない。 それは良くも悪くも確実に遺伝子に組み込まれたかのように、父から子へと伝わっていく。 蓮もそうだった。
 倒れて目を覚まさない皇眞を見て、見舞いに来て雅姫は泣いた。 「なんでこんなに蓮に似てるの……!」 皇眞の頬に触れながら、そう嘆く。 ―――自分を犠牲にすることころが似ている、そういうことなのだ。
 だが、彼女の活躍もあってか彩紅は助かったのだ。

 自分のために生きられない。
 
 そう言った皇眞の言葉を月夜は思い浮かべた、
 家族のためにしか生きられない、と。 そしてそれが達成された時に、自分はどうすればいいのかと。
 白吹がないと生きてゆけない。
 そう言った彼女に言いたかった言葉があった。 だが、目覚めていなければ言うことすらできないではないか。
 「―――ずっとここままだよなぁ……」
あの朔龍でさえ元気がなくそう呟いた。
 いつもは朔龍を暁人と一緒にからかっているが、こうも死んだように眠っていると―――なんだか、皇眞という存在が儚く見える。 剣術の強さやその性格や口調にごまかされていたが、もっと基本的な面で彼女は弱いのではないか。 
 彼らが出会ったときは、自分たちと変わらないくらいだった髪はぐんと伸びて、もう長くなっている。彼女は髪が伸びるのが早いらしい。 左右で違った長さの髪のまま、―――もう皇眞は女になっていた。
「えっと……皇眞の本名ってなんだっけ?」
朔龍の言葉に、甲珠は即答する。
「白吹桜姫。 まだ、民には公表されてないよ」
「そうだそうだ」
「―――いずれ、公表されるだろうがな。 だが、皇眞は皇眞で定着してしまっているし、皇眞はそれでいいと思っているから何も言わないんだろう」
甲珠の言葉に月夜は呟いた。

 「―――失礼するわ、いいかしら」

 と、扉の向こうから声がした。 雅姫の声だった。
 「―――奥様。 ……一昨日来られたのに、どうなされたんですか」
珠愛が言いながら扉を開け、甲珠も慣れたように上着などを預かりに行く。
「甲珠、珠愛、ありがとう。 ―――今回は、彩紅がごねて……皇眞に会いに行くって聞かなくて。 彩紅も、心配なの。 彩紅なりに責任を感じていて……自分の目の前で皇眞が倒れたから……ショックも大きかったみたいで。 昨日も一昨日もずっと会いたいって言っていたんだけれど―――」
ばっと彩紅は大人たちの間をぬって、皇眞のところへと行く。 寝台へとダイブして、皇眞の顔を覗き込んでいる。
 「フウ! フウ! おねえさまは生きてる??」
いつの間にか話すようになったのか、彩紅は楓有雅に必要に皇眞の安否を問う。 しかも何故かフウという皇眞の愛称が彩紅にも移っている。 あの惨状の中で聞き取ったのか。
「生きてますよ」
この頃には完璧に従う身として楓有雅は彩紅に敬語を使っていた。
「おねえさま、彩紅のせいで倒れちゃったのかなぁ。 ……彩紅が悪い子だったから、眠ったままなのかなあ」
子供の素直な悲しみがまわりの人間も伝わる。
「あーっ…、おねえさまの手血出てる! 赤いよ! しゅ、珠愛っっ!」
彩紅の握っていた皇眞の手は赤く染まっていた。
「傷口が開いたのね。 彩紅、少しだけいいかしら」
「う、うん……彩紅のせい……?」
「いえ、あなたのせいじゃないわ。 まだ皇眞の手はちゃんと終わりまで傷が治っていないのよ。 だから、一緒に手も眠らせてあげましょうね」
珠愛は笑みながら、彩紅に見えないように皇眞の手の包帯を取り替えた。
 まだ痛々しいそれは完全に塞がっていない。 三回ほど貫通した掌は、安静にしていなければいけないところを酷使し続けて相当脆くなっているようだった。 少しの衝撃でもすぐに血は流れてしまうし、先日の乱闘のせいで塞がりかけていた傷口は見事に開いてしまい、そのうえ少しの悪化も併(あわさ)さった。
「彩紅、皆さんにご迷惑よ。 もう帰りましょう」
雅姫がそう言って、彩紅を連れ戻そうとするが彼女は皇眞の脚に張り付いて離れない。
 「―――主上、もう時間ですよ」
すっかり仕事の補佐も板についてきた暁人が時計を見ながら言った。
「もうそんな時間か」
月夜は憂うように呟いて、ため息をつく。

 ―――また夜に来るか……。

 あの戦闘の最中での告白以来、事情を知る者たちは何も言わずにいてくれるため月夜も助かった。
 黒炎のことは皇眞が目覚めてから話そうと思っているし、皇眞との関係もあれで明らかに察しがついただろう。いずれ、ちゃんと明かさないといけないことなのだが。
 「じゃあ……俺と暁人は仕事に戻る。 朔龍、お前は特優隊の仕事ができない分今までどおりに軍へ行け。 櫂が面倒を見る」
「はーい。 でもオレ、もうちょっとだけここにいてから軍行きますわー」
月夜の言葉に相変わらずラフな言葉遣いで朔龍は返す。
 月夜は身を翻(ひるがえ)し、暁人もその後へと続いて―――皇眞の部屋から出た。

 一日、一日がこんなにも長いとは思わなかった。
 皇眞が起きていないというだけで、こんなにも日々は廃れてしまうものなのか。
 ―――お前がいないと生きてゆけないというのは、案外現実味を帯びているな。
月夜は自嘲しながら、内心呟いた。

***

 皇眞がいないと生きてゆけない、というのは双子である彼らにも当てはまることだった。
 甲珠は外面はなんともないように取り繕っているが、後悔と責任が痛めつけるように襲っているし、珠愛は素直に憔悴しきった表情をしていた。
 二人ともが、皇眞のために産まれて生きているようなものなのだから。 
 人生を皇眞に魅せられて、捧げている人物だ。 驚くほどたくさんいる中で、きっと彼らが一番最初の人間だろう。 だからこそ、心配で、目の前にいたのに護りきれなかったという後悔だけが残る。
 
 そして、目を覚ましてくれないことも甲珠と珠愛にはストレスになっていた。

 「―――皇眞……、桜姫……」
「おねえさまー…」
珠愛が皇眞を撫でながら名前をひたすら呟いて、彩紅は皇眞の身を案じているのかすごく微かにだけゆさゆさと彼女の身体を揺らしていた。
 だが、それすらもまったくといった様子で皇眞の返答は無しだ。


 「そういえばさ、皇眞がいなくなった白吹の仕事とか、どうしてんの? オレ、わかんないけど、名家って当主あっての、なんだろ?」
その朔龍の言葉は甲珠に向けたもので、それが甲珠にも分かったのか小さなため息をついて答える。
「―――俺ができる範囲では、やっているけど。 表のことは無理だから、期限延長か見送りになっているよ。 ―――詳しくは話せないけど、白吹はどの名家よりも当主がいないとやっていけないのは確かだ。 皇眞が眠っていることは伏せてあるしね」
甲珠は言いながら、またため息をついた。
 彼にもかなりの負担がかかっているのだろう、簡単に推測することができるから朔龍は黙って「そうか」と頷くだけに留まる。

 ―――あんた、自分がどれだけ重要な存在なのか理解したほうがいいぜ……?

 朔龍は思いながら、眠っている皇眞を見て、ため息をつく。 どうやら、甲珠のものが伝染したようだった。


 「皇眞の部下のー、珠愛ちゃんだっけ? てゆうか名前で呼んでいいんかな、俺」
皇眞がよく出すその名前を朔龍は言ってみる。
「いいわよ、……珠愛で」
珠愛はこっちも見ずに呟いた。
「あんた、少しは休んだほうがいいと思うぜ。 それと、そっちも」
甲珠を見ながら朔龍はなおも言う。
「できるなら、とっくにそうしてる。 でも、君はそうだよ、珠愛。 ―――ずっと、付きっ切りで皇眞を看(み)てきたんだから少しくらい眠りなよ」
甲珠と朔龍からの言葉に珠愛が項垂れた。

 「―――――うあ…っ」

 突然のその叫び声で、その話は途切れる。
 皇眞と同じように昏睡していた少年の目が覚めたのだ。―――…そしてそれと同時に叫び声を上げた。 恐怖で焦点の合っていないような目で、寝台から飛び起きて―――少しの間大人しくなる。
 その視界に命がけで助けてくれた皇眞が入ったらしい。
 「―――…ぼ、く……」
怯えた声で、皇眞から視線を外し―――甲珠や珠愛、朔龍を見て……そして雅姫と彩紅にいって、楓有雅に止まった。
「……僕を…」
「殺しなんてしないよ。 君は我が主のそこの彼女が護った大切な命だからね。 きっと、君のことを一生面倒みてくれると思うよ。じゃないとあそこまで助けたりなんかしない」
甲珠が先にそう言った。
「僕を庇ったせいで、その人はそのままなんですか」
「だとしたらとっくに君を殺してる」
笑顔で酷いことを子供に対しても言う甲珠は皇眞至上を徹底している。
「―――僕は……、僕は…お母さんとお父さんを殺されて、妹も、弟も…」
呆然と焦点の合わない目で呟いたその少年は次の瞬間に慟哭(どうこく)する。
「―――俺が無力だったから、何もできなかったから。 強くなりたい……僕は」
誰のせいにもしないその少年が、子供なのによく出来ていると甲珠は思った。





 「なら強くなればいい」


 か細い声が聞こえた。
 それは待ちに待って、焦がれるようにして望んでいたその人の声で。

 全員がその少年から視線を外して、皇眞のもとへと駆け寄った。
 「皇眞!?」
「皇眞!!」
「おい、皇っ! 目え覚めたのか!?」
「桜姫!」
「おねえさま!」
双子、そして朔龍、雅姫に彩紅。それぞれが皇眞の名前を呼ぶ。
 「っ……ああ…、さっきの、叫び声で目が覚めた……みたいだな。 ……ああ、身体(からだ)が重い」
皇眞は呟きながら、ゆっくりと起き上がる。 甲珠や珠愛が手を貸そうとするが、それを断りながら。

 「少年、名前は何だ」

 楓有雅のときと同じように名前を問う。
 「―――常羽(ときわ)」
「そうか、常羽。 気に入ったぞ。 お前もフウと一緒に弟子になれ。―――護りたいもののために強くなるなら、その価値はある。 自責の念も学んだなら平気だ。 お前をフウと一緒に養ってやる」

 また、皇眞至上が生まれたな。

 朔龍はやれやれとため息をつく。
 常羽は、激しく頷いて皇眞は神か何かのように見つめた。 ―――あの時命がけで助けてくれたこの人はこうやってまた自分を助けようとしている。 それが、泣きたいほど嬉しくて、素性なんて知らなくても絶対に良い人だ。
 驚きながら、常羽は皇眞を見ていた。
 そして、よく見たら……その顔が―――白吹に済む民に知らない者はいないほど有名で、偉大なる人の顔だった。


 「もしかして……皇眞様!?!?!」

  

 子供でも十分過ぎるほど知っている名前だ。 その言葉を聞いて、皇眞は面白そうに笑った。

***

 「珠愛、甲珠、お前らもう帰っていいぞ」
素っ気無いに等しいくらいの言葉で皇眞は言う。
 反対しようとする彼らを睨みながら皇眞はなおも言葉を重ねる。
 「―――珠愛は、ずっとわたしにひっついていたんだろう。 甲珠は、わたしの代わりに仕事をやっていた。 わたしは平気だし、仕事も変わるから。 ―――お前は寝てくれ。 お前らまで倒れたら、わたしがかなわないからな」
言いながら、さっささと双子を追い出した。
 それが皇眞なりの気の利かせ方と―――休もうとしない彼らへの休養の取らせ方のようだった。

 「おねえさまあっ!」

 がばっと抱きついてきたのは、彩紅だ。
 皇眞は身体に受けた痛みを顔に出さないで笑みで受け止めた。 今はそんな痛みよりも、彩紅が無事でこうやって笑顔を見せてくれるだけで本当に嬉しい。
 「元気? 元気だね! よかった、あたし嬉しい!」
「―――わたしもお前が元気で無事だったから嬉しい。 怖い思いさせて悪かったな」
「ううん、平気だよ! あたし強い子なの! おとうさまの娘で、おねえさまの妹だから!!」
自信ありげに無邪気に言う彩紅を撫でて、皇眞は笑んだ。
「わたしはもう平気だから、家に帰れ? ……もう少しでわたしも家に帰るからな」
「ほんとっ!?!?」
「ああ、本当」
「うんっ、じゃあ早く帰るねっ! おねえさまのためにお部屋きれいにして待ってるう!」
「そうか、ありがとう」
また彩紅の髪を撫でると、今度は雅姫の腕をひっぱるようにして外に出て行こうとした。 よほど皇眞の目がさめたのが嬉しかったのか、皇眞の言うとおりに家に帰って部屋を掃除したいらしい。
「皇眞、いえ…桜姫……、本当に無事でよかった」
心底嬉しそうに雅姫は言ってから、彩紅と一緒に帰って行った。


 人数が四人減って、最後の二人が出るまで終始笑顔だった皇眞の顔が、いなくなる瞬間に変わった。 とたんに痛みのような表情になる。 
 それを、朔龍に見せているというのはやはり仲間というものを少しだけ許した結果なのか。
 「あんた、平気か」
朔龍も今は冗談を言う気にもなれずに、皇眞の近くまで行って心配そうに呟いた。 また、皇眞も冗談を言う気にはなれずに小さく頷くだけだった。
「……まだ…本調子じゃないだけだ」
それは自分にしか分からないような体調の変化だろう。
「怜楊、包帯」
手短に呟いて、皇眞は貫通している掌を見つめた。 じわり、と包帯はまた赤に染まっていく。
「いつになったら、塞がるんだろうな」
「多少傷を…縫ったんですがね」
「そうか、なのにまだこれか」
怜楊の言葉に自嘲の笑みを漏らしながら皇眞は呟いて、包帯を取替え始めた。

 ふと、楓有雅を見やる。

 「フウ、ありがとうな。 彩紅を護ってくれて。 あと、常羽もお前と同じ弟子だからな」
「―――はい」
少しだけ不機嫌な顔で呟いた。
「どうした?」
その理由(わけ)に気づいた皇眞は含み笑いをしながら、楓有雅に問う。
「いえ、別に」
「―――心配ない、お前はお前だろ」
楓有雅は常羽が気に入らないのだろう。自分と同じ弟子という地位についた平民の常羽が。 遠回しに、差別はしないと皇眞は言いながら、常羽も見やった。

 「お前ら弟子同士なんだから、仲良くな」

 返答は返って来なかった。
 楓有雅と常羽は心なしか火花を散らしているように見える。
 ピキッ、と皇眞の中で何か音がしたのは言うまでもない。

 「仲良くな」

 再度呟く。 皇眞は笑っているが、その目が笑っていないことだけは確かだ。

 「「はい」」

 重なった声に、皇眞は再度頷いた。
 
 「常羽、剣は使ったことがあるのか」
「ないです」
「そうだな……民は使わないものだしな」
「でもっ、父さんが兵士だったので基本は教わりました!!」
「平民出の兵士か。 朔と同じだな」
「―――さく?」
こいつ、皇眞は横にいる朔龍を顎で指差した。 常羽はああ、と理解したようで頷く。
「じゃあお前は西洋の剣だな。 刀というより剣のほうが合ってるだろう」
皇眞は呟きながら、嫌そうなため息をつく。

 「怜楊、しばらくわたしに専属してくれ」

 落ち着いた声で、そう呟く。
 「やっとご自分の体調の悪さに観念してくれましたか」
怜楊はやっとと言った感じの安堵のため息をついた。
「もう、何もないだろうしな。―――安静にしていないと当主の仕事もまともにできない」
自分の新しい包帯を巻かれた掌を見やる。きっと重ねたガーゼは赤くなっているのだろう。

 「もう今日はいい。―――…フウ、トキ、夜、お前らはここの部屋を使え」

 楓有雅のフウと同じく、常羽もトキにさりげなくシフトしている。


 「どこに行くんだ?」
朔龍は首をかしげる。
「お前も一緒に来るんだ。―――主上と暁のところ」

 おそらくそれは、あの場で生き残っていた者たちが見た月夜の黒炎のことであり、そして彼と皇眞との関係のことなのかもしれない。何にせよ、何かしらの説明はあるのだ。
 きっと、皇眞も聞きたいのだろう。
 本調子ではない、と言った上で行くのだから。
 刺客の者たちは完全黙秘を約束できるし、もしばらしてしまったら皇眞は問答無用で斬るつもりだ。 それくらい忠誠を誓っている者たちだし、白吹の仕える皇帝を不利に立たせるようなこと当主である皇眞が許さない。 私情抜きでそうなのに、そこに私情が加わってしまったら徹底的に皆殺しか連帯責任だ。

 「行く!」

 朔龍は頷いて、皇眞のあとについて行った。

 「―――皇眞様!」
「平気だ。 今日はお前も休め、怜楊。 また明日の昼間でいいから、皇宮に来てくれ」
「わかりました。 気をつけてください。 手当てや点滴のことはこの楓有雅や常羽に簡単に言っておきます」
「ああ、助かる」
怜楊と言葉を交わして、皇眞はよろりと立ち上がる。
 寝台から身体を離すと、驚くほどによたよただ。倒れる寸前で、朔龍と怜楊に支えられ皇眞も訳が分からないと言った様子で頭を押さえる。
 「―――…?」
「あなたは凄まじい時間を昏睡状態で過ごしていたんですよ。 歩けるほうがおかしいです。 ざっと……」
「一ヶ月くらいだなー」
怜楊の言葉に付け足すように朔龍の声が振ってきた。
「……そんなに」
どうりで身体が思うように動かないわけだ。 心なしか、いや絶対に体重も体力も筋力も落ちただろう。また鍛えないといけないか、皇眞は思いながらはあ、とため息をついた。
「―――…ちゃんとご飯は食べてくださいね。 分かっているでしょうけど、体重はもちろん体力だって減っているんですよ。 まあ、まだ内部のほうが治っていないし、怪我も酷いからもうしばらくは安静にしていないといけませんが」
怜楊はそう言って、心配ように皇眞を見てくる。
「分かってる、ちゃんとやる」
本当にやるのか、と疑っている目だがそこは無視することにした。 皇眞はまたよたよたしながら、誰の手も借りずに歩き出す。しばらく立って、多少安定した足取りになる。
 朔龍は先回りにして、部屋の扉を開けた。


 まったく、こんなときくらい人に頼ったらどうだ。


 そう思うが、そうしないのが皇眞なのだ。 もし、頼る人間がいるとしたら―――今から会いに行く彼の男(ひと)だろうか。
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NoTitle

ここまで自分を犠牲にして護りたいものがあるから強くいられるんでしょうし、ここまでされるから部下も命を預けられるんでしょうけど、そのあげくのこんな姿を見せられたら、周りの人はたまらないでしょうね。
それが白吹の当主の魅力なんでしょうけど。。。
いよいよ最終章ですね。
月夜の秘密、月夜と皇眞がどうなっていくのか楽しみです。

dada様にコメ返!

ご指摘ありがとうございます!
暇ができた際に修正させていただきますっ(^^*)

第十二章をお楽しみに!
やっとふたりが報われて甘い章に入っていくことでしょう!
そうして、
この秘密は次回のお話へのフセンということで、この月夜の秘密がどうやってつながっていくかも注目してみていってくださいませ。

他の話に絡んでいると
きっともっと楽しく見られると思うので(自論ですが笑)
きっと、それぞれの話が番外編などで絡んでいきます←

いつもご丁寧にありがとうございます!

高宮
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