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「グランディア国物語」
If Story1 わたしの君にうたう歌<エメロット編>

萌芽

 ←Scene5 「本当に、ありがとう」 →意欲がわきます・・・何か書きたい。
―――――――――――――――――――Side Out


 「―――レシア?」


 サイラスはベッドに眠り続けるレシアの異変に、彼女の名前こぼす。

 レシアの瞑った目の端に、雫がかかっている。


 (泣いて、いる――?)


 何か、悲しい夢でも見ているのか。何なのか。――彼女から聞き出す術はない。……つう、と頬に伝わせた涙を拭ってやる。
 彼女も、他の誰かに泣いていたなど知られたら嫌だろう。
 幸い、意味は自分しかいない。


 誰の呼びかけにも答えない。何度強制的に起こそうと試みても、効果はない。しらみつぶしにしてみても、駄目だった。――残るのはエメロットしかいない。
 エメロットが大事な人物なのか。
 何か、レシアと深く関わりがあるのか。
 それすら、疑う者が現れるほど、だった。

 「サイラス様、来てたんですか」
「なんだかんだでサイラスも婚約者が心配なんだろう」
ランザとセザールが部屋へと入ってくる。その後、ぞくぞくと顔見知りが集まってくる。今日はサイラスの母であるミランダと、――レシアの両親であるレイシスとミレイアもいた。
「今日はエメロットが帰って来るらしくてな。もうすぐだとすぐ近くの宿から連絡があったよ。血相を変えたような怒鳴るような声だったぞ」
苦笑するセザールの説明にサイラスは腑に落ちる。だからこそ、こんなにも顔見知りが集まったのだろう。今は、エメロットの存在に、レシアが目覚めるのかの一縷の望みが掛かっているのだ。


 レシアに近しいひとたちが集まって――――――――、そうして。この部屋にも響くくらいの荒々しい足音が遠くから聞こえた。



 大きな音を立てて部屋の扉が開かれる。その場にいた全員がエメロットを見やった。
 だが、そんな当の本人は――今までに他人に見せたことのないような表情をしていた。否、旧友であるレイシス、ミレイアそしてミランダは遠い昔に数回だけ見たことがあるかもしれない表情。その場にいる者たちを誰も見ずに、一点だけ――ベッドに眠るレシアだけをその視界に収めていた。

 数秒だけ、止まったエメロットは――息を整えながら、汗を拭いレシアの眠っているベッドの脇まで歩を進めた。
 そのエメロットからは、仕事を終わらせたのち、とてつもない速さで帰ってきたことを証明するものがいたるところにあった。
 土埃のついた軍服、血のついた剣、若干弾んだままの息。乱れる髪。頤を伝う汗を荒く拭いエメロットは歩きながら、声を上げた。

 「おい、起きろ」

 聞こえてんだろ、と続ける。


 動揺を隠せず、何事かと声を開こうとした面々を無視したまま、エメロットは口を開く。

 「聞こえてんだろ、俺の声が……!」

 それは、教え子であるレシアに対する口調でも態度でもないことは、レイシスやミレイア、ミランダ――旧友にはわかった。
 本来のエメロットならば、誰に対してもこんな罵声のような荒い声は上げない。
 だからこそ、――目の前の友人が、とても必死だということが明確にわかる。


 何故、という言葉は――エメロットの気迫に飲み込まれたこの部屋で発することができなかった。


 エメロットは、視線を――一点に注ぐ。

 そこに眠っているのは、小さな頃から知っている己が剣を教えていた少女。けれど、違う。――この少女は、紛れもなく、彼女で。


 あの、偶然がなかったら――。
 いや、なくても――きっと気づいていたはずだ。


 時折彼女が見せる表情は、幼くはなく――既視感を覚えるもので。辛く、切なく、苦しく――何かを言いたそうに、眉を歪める様。
 それでもそのあと、飲み込むようにして笑顔を浮かべる。


 逃げたがりな、弱くて脆い――それでもたまらなくいとしい彼女の表情だ。


 あの偶然が確信だったとしても。
 そんなものはどうでもいい。――己の運が良かったのだ、引き寄せたのだ。彼女の魂を。――そう、自分が解釈すれば、それが正解になる。


 確信してからの彼女は、まさしく彼女そのもので。


 似ている、なんてものではない。


 仕草も、視線も、表情も。



 いつから、だっただろう。
 レシアが彼女だという事実を、飲み込み始めたのは。
 背徳すらどうでもよくなったのは。


 いつからか、レシアはレシアではなくなった。
 そして彼女も混乱していたのかもしれない。こんな風に、倒れるくらいには。

 (お前は逃げたがりだから、――また、逃げてんだろう。怖くて、知られるのが嫌で、自分から苦しくなりやがってんだ)


 エメロットの悩みはだんだんと消えていった。


 既視感が既視感ではなくなり、――目の前の少女が大人になり、彼女の片鱗を魅せるたびに。


 彼女の向ける視線が、


 時折見せる苦しそうな表情が、


 何かを含んだように視線を逸らす顔が、


 言葉を噛み殺すようにして呑み込む姿が、


 それを隠し通すように笑みを浮かべる姿が、





 遠い昔愛した女と――――――――――――――――――同じ、で。


 「ほんと、馬鹿野郎が」

 立っていたレイシスやサイラスを無言で退けると、レシアの眠るベッドの脇に立ち、彼女を見下ろした。

「……お前、ボロ出したぜ。隠すんなら、最後まで隠し通せ。つうか、隠しても俺がぜってえ見破ってやるけど」
昔の口調に戻ったようなエメロットに、誰もが疑問符を浮かべている。けれど、そんなのも構わずエメロットは続けた。
「――そうじゃなくても、あんな目で俺を見ておいて、わからねえとでも思ったか、この野郎が。――お前、癖だよな。見える黒い世界が嫌んなって、苦しくなって、終いにゃ身体も辛くなって、倒れんだよ。逃げたがりのくせに、自分が無理してんのがわかんねえのも、同じだよ」

 すっと目の際を撫でてやった。泣いた後が微かに見えたが、手を追うように端からつう、と涙が伝いそれも拭ってやる。


 「エメ―――?」


 小さな問いは、ミランダかミレイアか。


 「おい、エメ―――?」


 レイシスも同様したように、普段人前では見せないエメロットの愛称を呼んだ。
 恐る恐ると入った様子だった。
 少なからず、エメロットが「何」を言いたいのか、気づき始めているのだろう。エメロットが意図してレシアに語りかけるその内容は、かつてエメロットと旅をしていた旧友なら理解しうることなのだから。
 けれど、何故――眠るレシアに向かい、〝彼女〟のことを話しているのか理解できないのか、することを拒むのか。

 常識的に考えたら、ありえないような、ことを。

 「俺は、まだ、許してねえぞ。――とっとと、起きて謝りやがれ」

 瞼を伏せ続ける彼女を見下ろしてそう言った。


 荒い言葉を吐き捨ててるはずなのに――傍から見れば――甘くこの上なく優しく聞こえるのはなぜなのだろうか。




 なぜかは知らないが――きっと、今も彼女の視界には時折黒い世界が見えているのだろう。
 食い入るように景色を見つめているとき、何事もなく生活をしているときは――きっと、何も見えていない世界。過去、彼女が経験することのできなかったっものだ。
 そして、挙動不審になりながら辺りを見わたし、足元しか映していないとき、浮かない顔をしているとき、――そうして、決まってエメロットのもとに来るとき――きっと、黒い世界が見えていたのだろう。
 理由はわからなくとも彼女の身にそれが起こっている。

 予想で結論づけただけだが、――あの日の出来事があって以来は、何も言わずに彼女のそばにいた。




 あの日の出来事があったとしても、


 今、こうして眠る彼女に言葉を投げていても、


 間違っているかもしれない。思い違いかもしれない。


 そうに思う自分もいる。


 けれど、レシアが彼女ではないと――思っていない自分がいた。



 「俺がいるんだ、お前が嫌う世界じゃねえだろ。――目を覚ませ、リーシャ……!」

 髪を撫で、手の甲を頬に這わせる。
 すう、とまた彼女の目の端から涙が流れた。

 



 その言葉に、はっと息を呑む旧友たち。
 何事かわからないという様子の、セザールやサイラス、ランザ。


 そうして、もっと彼らが驚愕する。



 「――――――――、」


 こほ、と小さく息を吸うレシア。う、と苦しそうに息を吐きながらゆっくりと瞼が開いた。

 きっと、声は聞こえていたはずだ。
 エメロットの彼女と暮らしていた経験上、把握済みである。


 「……え、め……」


 恐れるような、苦しそうな、怯える瞳が――エメロットへ向けられた。ぶわり、と涙が浮かびとめどなく流れる。
 レシアだと取り繕うことも忘れているのか、呼吸を乱した彼女ははっと目を見開いた。

 「………気づいてたの、知ってたの。……き、みは……わたしが、……わたしだって、……わかって、」

 他人から見ても、もちろんエメロットから見ても、震えているとわかる声で、動揺を隠せずにいる彼女。

 「―――――ッ!!!」


 逃げたい、とその目が言った。
 そうして、窓へ向かって手が伸ばされる。



 「逃げんじゃねえよ……!」



 レシアが放った光で窓が割れ、窓枠自体が外側へと吹き飛ばされる。部屋中にガラスの割れる音が響き、一瞬だけ視界が奪われ周囲がざわついた。

 レシアが一番その窓に近い、無我夢中でという様子がありありとわかる。破片が残る窓枠を血が出るのも構わずに掴んで、外へ出ようとする彼女を――エメロットも、破片で腕や手が切れるのも構わずに止めた。


 「いやっ……嫌!――やめてくれ……ッ。やめて……!」
「お前が隠してたからって嫌ってねえよ。お前が怖くて正体明かせなくてずっとレシアでいたことだってわかってる。嫌ってねえよ。嫌ってねえから逃げるな。……むしろ待ってたんだ。もう、いなくなるなよ……」
「―――ッ」

 逃げようとするレシアの腕を無理矢理に掴んで、強引に引き寄せた。ぎしりとベッドに膝を乗せて、そのまま彼女を抱き込んだ。一息ですべてを言った。

 強く、強く。


 息を呑んだレシアの身体の力が緩く抜けるまで、ずっと抱きしめていた。


 (信用ならない。お前は、……すぐに逃げる)


 弱くて、脆くて、すぐに逃げようとする――けれど、それは、エメロットを想っていることに比例するのだとわかっているからこそ、いとおしくてたまらなくなる。


 「うっ……ふっ……ううっ……」


 声をあげて泣くレシアを――否、彼女を初めて見た。しがみついて、それでも無意識にだろう額をすりよせてくる癖は変わっていなくて、彼女がリシャーナなのだと実感した。
「……お前の逃げるくせも、何もかも全部わかってるよ。仕方ねえ奴だな。本当に」

 やはり、彼女はリシャーナだった。

 かつて、エメロットが愛し――けれど、いなくなってしまった女。

 レシアが泣き止むまで、背中をぽんぽん叩いてやる。今度逃げるような真似をしたら、今度こそ押し倒してやろうか。――エメロットはレシアを捕まえるように抱きしめたまま、その頭に顎を乗せたまま手を叩くのをやめずにいた。
 ベッドに腰を下ろして、息を吐いた。

 びくりと、レシアの身体が揺れる。


 まだ、怯えているのだろうか。

 何を言ったらいいかわからないと言った様子だった。


 「………君に、告げるのが怖かった。姉が亡くなってから、……わたしは完全にレシアでは、いられなくなった。……君が、どう思うのかが怖かった。怖くて、言えなくてっ……、でも言いたくて……ッ、君の前からいなくなったのはわたしなのにっ……」
「わかった。わかったから、泣くんじゃねえ。せっかく泣き止んだのに、また泣いたら意味ねえだろうがよ」

 エメロットはレシアの髪を撫でて、涙を拭ってやる。
 今もレシアの胸中には、あの頃の後悔と――そして、今の現状の動揺があるのだろう。

 「泣き止んで落ち着いたら、ゆっくり話せ。……俺や、こいつらにもわかるように」


 この現状についていけていないのは、周囲も同じだった。


 エメロットがそう言いながら、レシアの背中を叩くと―――レシアは、――リシャーナの微笑みでゆるりと笑んだ。


 「やっぱり、君は強くて、優しいね」


 レシアの声でリシャーナの言葉を唇に乗せる。その表情はリシャーナそのもので。
 レシアがすべての体重を預けてくる。


 その囁きは、酷く甘く聞こえるもので。


 (やっぱり、お前は、)



 エメロットは再び実感した。――この女は、かつて自分の愛した女だった。

―――――――――――――――――――End.


 わたしはエメロットの腕の中で深く息をついた。

 君の腕の中はいつでも同じで。心地良い。

 わたしが落ち着くまで、君の力がほしい。


 君がどれだけ年月を重ねていたって、今のわたしが幼くたって、そんなものは関係ない。まわりも、立場もそんなものは精霊であったわたしには関係にない。


 君だけが、わたしのすべてで――考える根本だったあの頃。


 君に知られるのが怖くて。嫌われるのが怖くて。どうしようもなかった。

 けれど、嫌わないでいてくれる。

 自分でも呆れるほどに弱くて、逃げ出す、脆いわたしを――捕まえて、強引に抱き寄せて安心させてくれる。君は知っているのだ。わたしがそうしてくれることを望んでいる、と。


 エメロットに全てを預けて、縋りつくように背中を掴んだ。


 そうして、息を吐く。


 うずめていた顔を上げた。――今までの経緯を話すために。

*・*・*

 あの長い夢は、リシャーナへの覚醒を意味していたのか。もう思考もすべてリシャーナであるわたしで。レシアもすべて混同してしまっていた。
 どこからどう話せばいいのか。
 わたし自身わからないところもある。

 まず、精霊が輪廻を巡ることはありえない。人間の世界の輪廻であるから、精霊はその外側の存在であり本来ならば、介入することはないはずなのだが。

 それに関わっているとすれば、旧友たち以外いないはず。
 彼らには自分がリシャーナであることを隠していた。隠す、ということ自体が背徳な気がしてならない。

 「まず、今のわたしは――リシャーナの記憶を持っているということから言わなくてはいけないね。レシアの記憶もあるけれど、たぶん、わたしは……リシャーナでありたいと思ってしまっている。だから、等しく、わたしはレシアではなく、リシャーナなのだと思う」

 語るように口を開く。

 「……人間の世界には魂の輪廻はあるけれど、精霊はそれに当てはまらない。もし、輪廻をしたというのなら――きっと、わたしのかつての旧友たちが一枚噛んでいるのだろうけれど……、それはまあ、あとでいいね」

 口調すら違くなったわたしは――きっと目覚めてから、リシャーナでありたいとどこか願っているのだろう。

 「なぜ、リシャーナの記憶があるのか。――たぶん、レシアが生まれたときに、そこに同化し入り込んだのと思う。そこまでは夢に見る程度だった。きっと、ずっと〝そのまま〟だったら……わたしはこうやって完全に目覚めてはいなかっただろう」

 何故、目覚めたのか。
 わたしは、仲間たちに酷なことを話さなければならない。

 「――わたし……ここではレシアと言ったほうがいいかな……。レシアの姉であるミリアが余命よりも長く生きたことを君たちも知っているよね。それはレシアが、精霊に頼み――……自分の命を明け渡したからだ」

 淡々としゃべるわたしをぐっと掴むエメロット。

 その先のことが想像がついたのか。

 「レイシス、ミレイア、ミランダも。――君たちは過去に、リシャーナというエメロットの精霊と出逢っているから、理解はできるよね?……けれど、レシア……わたしがやってしまったことは、――この世界の摂理い反した行為。――他が為という自分の願いはどれだけの代償を必要とするか、レシアもわかっていた」

 娘であるはずのわたしが、娘ではないのだからこれもおかしは話だろう。

 「本来はやっていはいけないことなのだから、その代償も大きい。――わたしは〝生命の精霊〟であったからね、……レシアが願った相手はわたしの次の〝生命の精霊〟……なんて皮肉だろうね。……ともかく、言ってしまえば――レシアの命は短くなってしまったということだ」

 これでは直入に言いすぎただろうか。衣に包むどころか、生々しいままに言ってしまった。

 もう少し説明するには長いし、細かいところもいろいろあるのだが――世界に魂があり、それが輪廻へめぐると云々の話をするのは人間相手には難しすぎるだろうから省いておく。

 「簡単に説明すると、レシアの魂はミリアの死とともにその大半がなくなった。だから、レシアとともに入っていたリシャーナの魂とのバランスがくずれ、もともと精霊であるため生気も強かったのだろう。リシャーナの魂にある記憶が均衡を崩すとともに現れた。―――こうして、」

 エメロットを見やり、両親や、ミランダ――ランザやサイラス様、セザール様を見やった。

 「リシャーナでありレシアだけれど、わたしはリシャーナでありたいと無意識にでも願ってしまっているあたり、リシャーナなのだろう」

 生命の精霊であった。
 無駄に役目として知識と知恵だけはあった。その頭の良さと適任すぎる能力があったから、駄目すぎるどうしようもない逃げたがりの性格をカバーできていたようなものだ。
 だからこそ、今自分がおかれている状況を酷く理解している。
 残りの命がどれくらいかもおおよそ検討がついてしまう。

 それはレシアの命で考えた場合なのだが。

 リシャーナの魂もあると考えれば、それが作用するとどうなるのかわたし自身もそこまでは計れない。

 そのまま死んでしまうかもしれないし、長く生きれるかもしれない。
 曖昧だ。

 確かじゃないことは口には出せない。心の中にしまっておき、――となりのエメロットを見上げたのち、仲間たちにも視線を投げる。

 「話終わったけれど、何か聞きたいことは。……エメロットに捕まれているし、逃げないから、答えられるだけ疑問には答えよう」

 それが、エメロットにできるわたしの誠意だろう。
 性懲りもなく逃げ出そうとしたわたしを、昔と同じように捕まえてくれた優しい君への。


 「あ、なたは……本当に、リシャーナ、なの……」

 震える声でミランダが問うてきた。
 「――君たちにああ、と言って信じてくれるかわからないけれど。――わたしの頭の中には君たちとの記憶はちゃんとあるよ。君は昔はお転婆でシリュウのあとを追っていた。レイシス、ミレイア、君たちの昔も知っている。君たちとても不安定で、子どもが抜けない……大切な子どもたちの扱い方を少し間違えてしまったね。けれど、治せるはずだ。――わたしのぶん、ロイを大切にしてやればいい」
続けて、両親に向かってわたしは言った。

 両親ではあるけれど、それと等しいくらいにわたしの脳裏には、ふたりは旧友として映る。

 「わたしは君たちの娘ではあるけれど、――大切にしてもらえるような考え方をしていないよ。……わたしは人間だけれど、頭の中では精霊としての考えが抜けていない。知識だけはあの頃のまま。この世界の摂理すら知ってしまっている。――わたしは、エメの記憶があることを、またこうして戻って来たことを、苦しいと思いながら嬉しく思ってるんだ」
「……り、リシャーナ……」
ミレイアが囁く。そこでレシアという言葉が出てこなかったのはその事実を無意識にも受け止めてしまったからかもしれない。
「……お前の中身がリシャーナであろうとも、お前はレシアであることには変わりない」
「そう思うのだったら、レシアをもっと大切にしてやればよかったんだよ。わたしは、君たちに優しいことは言わないよ。エメだってそう言うだろう?――けれど、そう思い始めてくれているなら多少は悔いているということだね。嬉しいよ」
わたしは、レシアではない口調でそう畳みかけた。

 かつての記憶に、若いレイシスとミレイアの記憶が映る。夢の中で見ていた景色が鮮明にすべて記憶として思い出せている辺り、もはやわたしはレシアではないのだろう。

 「お前……命が短くなったって……」
「まだはっきりとしたことはわからない。――精霊たちとも話してみよう。今、言えることは――わたしは、君たちよりも早く死に、運が良ければ君たちと同じくらい生きられる〝かも〟しれない――ということだけ」
エメロットの声は悲痛だ。
「けれど、……死にたいなんて思っていないよ」

 もし、と過程する。
 もしわたしがとても彼に会いたくて、会うために彼のそばで生まれる命としてレシアの魂と同化することを選んだのなら、それはとてつもない奇跡だ。
 自分自身に感謝したい。運命を手繰り寄せたということだ。
 そうして、数奇の末に――記憶まで取り戻したというのなら、――わたしは彼のために。

 あの頃果たせなかった願いを果たすしかない。

 「……君を、君の生きる世界を護りたいという自分の願いのためにわたしは死んだ。君の想いすら裏切って。けれど、こうやってまた生きているのなら、……今度はこの命が尽きるまで君のために生きていたいよ。命が削れてから記憶を思い出したのが前世の業というのならば、……そうしてわたしと同じ選択をレシアがしたということも――何かの運命だったのだろう」

 こつ、と額をエメロットの胸元に預ける。
 それにしても土埃まみれだ。


 「――レイシス、ミレイア。許してほしい。わたしはレシアだけれど、君たちが過去にあったリシャーナでもある。――我儘だってわかっている。君たちに謝っても足りない。貴族のことは、レシアとして生きていた数年でわかっているし……サイラス様や……他のひとたちに迷惑がかかるということも。――けれど、わたしは………っ、もう……、死にたくない。自分のために、生きたい。そう、思えたんだ」
「――――ッ……」
ミレイアが涙を浮かべてこちらへ駆け寄った。
「……生きていいのよ……!……あなたは生きていいの……!昔の、あなたが……っ、そうに考えられるようになっただけで……っわたしはっ、嬉しいわ。……リシャーナっ……レシア……ごめんね。わたし、わたしっ……あなたに酷いことしているっていうこともわからないくらい、子どもで……っ……、あなたは、」
わたしの前で泣き崩れるミレイアに、わたしは微笑んだ。
「……知っている。わたしもレシアも。――君たちは子どもを大切にしすぎていただけ。少し空回りしていただけ。反省して治せるのなら、未来はある。――わたしもすまない。レシアもリシャーナも今はわたし、わたしは……エメの、ことしか――」
ミレイアの肩を抱いたレイシスが、わたしの髪を撫でる。
「そんなことはわかってる。――お前も昔俺たちとともにいたが、俺たちだって……お前とともに旅をしていたんだ、リシャーナ。お前が、誰よりも、エメロットのことを考えてそばにいて護っていたのは、誰よりも俺たちが知っている。――知っている」


 親であり、旧友であるふたりの言葉に。

 レシアの人生すら許された気がした。
 わたしとふたりを阻む壁が崩れて消えたことがわかった瞬間で。


 泣きながら、わたしは頷いた。また涙が出た、と情けなく思いながら目じりを拭って。



 深く息を吐いたエメロットががしがしと荒っぽくわたしの髪を撫でる。何かを切り替えた様子だ。

 「おい、逃げたがりなのは変わんねえが――、お前は生きたいっつったんだ。死のうとすんじゃねえぞ。まァ、今度逃げ出そうとしたら俺が捕まえて死なないように縛りつけてやる」
「………冗談なのか本気なのかわからないのが怖いぞ。――けれど、もう死にたいなんて思わないよ。逃げたいとは思うことがあるかもしれないけれど。君が追ってくれるなら、わたしも安心かな。けれど、レシアがしてしまった禁忌のおかげで前世の記憶が蘇ったのなら、罪にも恩恵にもすべてに感謝しなければならない」
「―――」

 くしゃりと髪を撫でられ、引き寄せられる。

 「お前の命のことは、ゆっくり考える。――こんな短い間に片付ける話じゃねェ」
「君がいうなら、それでいいよ」
有無を言わせぬ言葉にくすくすと笑う。あの頃に戻ったみたいだ。

 自分のもののように抱きしめたまま、まだ困惑を隠せない周囲に向かってエメロットは口を開く。

「……サイラス坊、……レシアくれ。婚約破棄な。――ミランダ、頼むぜ。こいつお前らんとこやれねえから。シリュウにも言っとけ。――レイシス、ミレイア。いいよな?レシアもらうぞ。つかお前らが反対しても世間がなんつっても、俺がもらうわ。決めた、今決めた」

 やっぱり、とんでもないことを。

一度に言い切ったエメロットだが、なんて子供みたいで横暴な言葉だろうか。だが、それも有無を言わせない響きを持っていて。全員にそう言ったあと、ぐりぐりと頭を強く撫でられる。


 そうだった。


 旧友の中では、エメロットは影の支配者だった。


 こうやって横暴なことを言うくせに、ほら、空気は君に取り込まれている。

 「君というひとは、」

 エメロットの腕の中でただくすくすと笑い続ける。




 君は強い。



 混乱する仲間たちの中で、辛いことを言われたはずなのに、そんなことを言う。

 受け入れられないはずのことを簡単に受け入れて。


 君は強い。


 「そう、ですね。………俺には入りきれない絆が、母やあなたや、今のレシアにはあるようだ」
サイラス様も事態を呑み込めずにいるようだが、把握はできているらしくそう頷いた。婚約者が前世を持っていて、エメロットの恋人で、自分の親とも旧友だったなど――数分で理解して折り合いがつくことではないだろう。頷ける。
「……わかっているわ、エメロットを怒らせると私なんか手におえないもの。……それに、レシアがリシャーナだというのなら、あなたの幸せは……前と変わらず、エメロットのそばよね?」
ミランダの微笑みはすべてを了承したものだった。

「―――――んじゃ、行くぞ」

 ぐっと立ったエメロットがすたすたと歩いて行って剣を帯剣する。

 「いいのか………、事態は収拾してないぞ……?」
「あァーと、……王が良さそうな目してっし、サイラス坊もミランダもああ言ってっし、そもそもレイシスらは俺に口出しできねえし。王がいいなら、あとは無視しても問題ねえな」
「――行ってくれて構わないぞ。説明は知り合いを通して聞くことにしよう。――あとからでも構わんしな。……レシアが無事で仕事をしてくれれば問題ない」
「問題ねえっつってるから問題ねえな。レイシスもミレイアもミランダも気にすんな、行くぞ」
セザール様がそう言ったため、エメロットがそう言って踵を返す。
「気にするなって……君っていうひとは」
「お前には謝ってもらうことが、多すぎるからな。早く帰りてえわけよ」
「わたしは君の家に行くことが決まってるのね」
「こっから先は自重ってことでな」
「――君はつくづくいい性格をしている。強引なところは昔と変わらないのだね」

 ベッドから起き上がって、黒い世界に目を瞑る。
 目覚めてから見え続けていた世界だ。――つくづく運の悪い自分に呆れながら、つきまとう世界を何食わぬ顔でやり過ごす。

 「先に行くんじゃない。――わかっているくせに」
「――すまね、試した。……今見ている世界が嫌なら眠ってもいいぜ。気ィ失うの得意だろ」
「……君のおかげで、黒いひかりも白に変わっているよ。相変わらず、君の魂は強くて綺麗だ、おかしいくらいに」

 目を開けた景色は、君を中心に光輝く。

 「お前、たまにリシャーナの見る世界が見えてたんだろ。そん時、俺んとこ来てたのも知ってる」
「君のそういう食えないところが好きだよ」

 扉のところで待つエメロットがドアノブに手をかけて内側へと引く。

 「嵐のようにすまないね。――あとで弁解しよう。……サイラス様……ミランダ、婚約の話駄目にしてしまってすまない。ありがたいと思っている。レイシス、ミレイア、ふたりもすまない。そして、本当にありがとう。また落ち着いたらちゃんと話そう。――ランザ、少しの間小隊を頼むな。君の知らないリシャーナだけれど、わたしの中にちゃんとレシアの部分もあるから、今まで通りによろしくね」
「おら、とっとと行け」
「……っと、まったく。……君は変わらないなあ」

 呆れながら、押される背中をそのままに外へと出た。

 エメロットが後ろを見やる。

 「んじゃ、そういうことで。――邪魔したら、誰であろうと許さねえからそのつもりで」

 ギロリ、と低い声で鋭く口に出すエメロットは若い頃と同じだ。今のその底冷えするような本気の声はかわらないらしい。というよりも、歳を重ねてか貫録さえあるような気がする。

 「羽目の外れた大人の男の独占欲は強いってことだね、エメ」
「……お前が言うかよ、ばあか」

 くっと笑ったエメロットが扉を閉める。



 「俺はいつだって、自分に嘘をついたことはねえと自負してるが?」
「本当に、そうだよ」





 いつだって、君のその強い心と曲がらない心を尊敬して、いとおしいと想っていた。

 こんなにも穏やかな気持ちで君のとなりを歩けていることは、やっぱり、君が強く弱いわたしを引き止めてくれたからなのだろう。

 やっぱり、君のことがとてもいとおしい。ほんとうに。
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