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「あなたとわたしのこいのはなし。」
Act1.ある龍と少女の恋

3.とある龍の憂い

 ←2.九尾と龍 →4.ある少女と龍の恋


 そのとき感じた劣情を、――嫉妬や恋、恋情と言いかえるのならばきっとそうなのだろう。

 通りすがった村が山賊に襲われていたのも、姉妹が襲われているのを助けたのも、ほんの偶然の気まぐれだった。
 妹の死ぬ間際の悲鳴と、
 姉の自分のことは構わずに妹だけの心配をしながら身体を擲つ姿を見て、
 怒りが思考が焼き切れた。

 人間とはなんて愚かで、卑しくて、どうしようもない人間ばかりなのか。

 無力でか弱い者たちはいつだって捕食者に貪られ、無残に死んでいく。長く生きている間でわかりきったほどに理解した人間の醜い習性だった。

 姉のほうは、自分の身体を構わずに致命傷になりうる怪我もそのままに妹の亡骸を見て、感情を失ったような目のまま号泣する。
 それを偶然の光景だと切り捨てることはできずに。
 殺してくれ、と女の口調ではないそれで懇願する少女を放ってはおけなくなった。

 殺してくれと言っていた女が自殺未遂を図ろうとするたびに無理矢理に生かす日々が続いて。
 一気にすべてを失ったらそうなるだろうと冷静に思う自分がいた。
 俺の姿を一回見せてからは、龍であることを隠さずに彼女を止めることができたから、ことごとく生かしているうちに彼女が死のうとすることはなくなった。

 致命傷にはまでは至らなかったが、深い傷は彼女の身体に残った。けれど、その傷が癒える頃には、奇妙な関係性が成り立っていた。

 お互い口数は少なかったが、いつしか彼女がいることが安心するようになった。
 いなければ不安になって。
 過去に魘される彼女を護りたいと思うようになって。
 たまに見せる憂いた顔に惹かれはじめたころ――。

 過去に殺したはずの男たちに激しい怒りを覚え始めた。

 彼女の村を、家族を奪い、台無しにした者たち。彼女に一生消えない身体と心の傷を残した。人生すら台無しにした。

 『――名は、リウだ。言うのが遅くなってしまったが、……あのときは助けてくれてありがとう』

 礼儀正しくそんなことを言うのもいじらしく。

 『――あなたの名は――?』
『紅雅』
『――コウガ……』

 お前は俺に踏み込もうとしない。
 だからこそ、俺もお前に踏み込もうとはせず。

 それでも帰りたいと言わないように言わせないように、彼女をそばに置き続けた。いつか村に帰りたいと言われたとき、俺はどういうのだろうか。
 そんな危惧がちらついた。

 ――だから。

 『――あなたは、わたしの村の惨状を見た――?わたしはすぐに逃げてきたから、村がどうなっていたのかわからないんだ』
『――俺が出くわしたときに、山賊を見る限り狩ってはおいた。逃げ延びた者も数人はいるだろう。だが、……村は燃えているはず。死傷者もいるだろうな』
『わたしたちみたいな女もいたんだろうか』
『……――』
実際、死んでいただろう男や女たちもいたし、炎に燃え盛る家も見た。だが、それを詳しくは言わない。無言こそがその答えだろう。
『――妹はいなくなってしまった……。父さんと母さんは……、それに恋人もいた。生きて、いるだろうか』

 憂う表情はその男の、ものか。


 一瞬、激しい感情を抱いて――驚く。

 ああ、結局――自分も、彼女を汚そうとした男たちと変わらない。
 決して許そうとはしないその心を、――ひとりの男だけには許したことがあるのか。その身体も許して、心まで渡したことがあるのか。
 ただただ感じたのは嫉妬の類の劣情で。

 『―――どうした』
『――、』
『大丈夫か?――――――すまない、疲れたから寝かせてくれるか』

 きっと気遣いだろう。
 心を奪われたのだと実感しているところに、隠れた優しさが痛い。感じた劣情が恋なのだとわかってしまう。



 いつかは壊れる。


 いつかは、今のままではいられなくなる。


 そんな危惧をしていた。


 ――――お前はそばにいるのに、会って一年という月日が経とうとしているのに俺のことを一度も、名前で呼んだことはない。



 「俺の名を、呼んでくれ」
「―――こう、が……」

 憂いが腫れる。お前が俺の名を呼ばなかったのは――否、呼べなかったのは――俺と同じ恋情ゆえだと、そう思っていいのだろう。
 彼女の声音は震え、それを思わせる声のまま――俺の名前を愛おしそうに呼んだ。

 「――お前が思うように、俺も」
「――え、」
「……お前は俺の名を呼ばない。だがきっと、お前はかつての恋人の名を呼んでいただろうし、その男にはきっと身体も心も許していた。――それに醜いほど、嫉妬している」

 囁くように言ったその言葉に、赤面しながら黙り込む彼女。

 「あなたも、悩んでいた……?」
「――俺は人間ではない。それが俺にとっては一番の不満だ」
「紅雅―――ッ」

 震える。
 抱きしめる。

 あなたもわたしの反対だけれど同じことを考えていたとしたならば、あなたもこんなわたしに何かを悩んでいてくれていたのならば。

 こんなに嬉しいことはない。
 涙が出る。
 いつから止まらない。

 「泣き止め――、リウ」

 困ったように呟く低い声。沈黙が訪れる。たくさんしゃべったから疲れたようだ。ゆっくりと再度抱き寄せられて、背中を撫でられる。
 首を横に振った。泣き止めない。

 幸せすぎる。

 「…………すき」
「――っ……、リウ」
「確かに恋人もいたが、もう時効だ。――わたしはもう戻れない」
「――」
「帰る場所もあなたの、ところだ」

 今まで話せなかったぶん、あなたと思いの言葉を交わそう。

 また名前を呼ばれた。
 頤に手を添えられて上を向かされる。
 決して清いままではないし、はじめてでもないけれど、心臓がうるさい。耳にまで響く鼓動の音が自分の度合いを示す。

 唇が重なった。

 ゆっくりどこか何かを試すような優しさで。

 もう一度重なる。
 舌がゆるりと触れてくる。口唇を開いて深く口づけを交わす。
 震える。
 怖くないとでもいうように髪を撫でられた。

 やさしい。
 ああ、もう――あなたは、やさしい。やさしすぎる。
 涙が出る。
 あなたがいとおしく、やさしすぎて、すきで泣けるなんてはじめてだ。

 「―――んっ……ふ、」
「しょっぱい」
頬に伝う涙のあとを舌が伝い、目じりを舐める。
「―――泣くな」
囁かれる。
「泣かせ、ないで、くれ」
「――そうか、俺のせいか」
嬉しそうに口端が笑みをつくる。きっと涙の理由をわかってくれている。――そんなことでさえ震えるほど嬉しいのに、気持ちが通じた瞬間に何倍にも膨れ上がる想いがあるなんてはじめて知った。

 腕を回す。

 少しだけ驚いたような表情をしたあと、彼は目を細めた。

 もう一度、唇が深く重なる。

 「――ぁ……ふ、―――――んん」
「――ン」
「んん……ッ、ふ、ァ」

 幸せを噛みしめる。

 「―――はぁッ……ん、……は」
彼の胸に体重を預ける。抱きしめる彼はゆるりと髪を撫でてくる。
「もう手放してやれない」
「―――ああ、いいぞ」

 離れしまういつかを怯えずにあなたのそばにいていい幸せを、噛みしめる。
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