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「グランディア国物語」
Chapter3 わたしを繋ぐ声<ルシュド編>

覚悟することも、

 ←これからのはなし!と、コメ返あり! →痛刻の変革 【壱】

 エメロットはもういい大人の言うことで後継者が欲しいとは思っていたそうだ。それでもわたしは形だけだし、養子として引き取ること自体は家族のほうも問題はないらしい。
 けれど、あとを継げるほどわたしの命が残っていないことは誰も言わない。
 「……」
 あたりを見回して、前を歩くエメロットを見やる。
 彼の屋敷は一人でだだっ広い部屋を占領しているようなもので、あとは使用人が数人かだけという簡素なものだった。部屋はたくさんあるらしく、大きい部屋を用意してくれて、エメロットはいつかの師の顔で笑った。
「今日はもう休んどけ。明日からまたいつも通りだ」
気楽にそう言ってくれるエメロットはどれだけ強いんだろう。数年かけて見守ってきた弟子がもうすぐ死ぬのだという事実を受け止めて、飄々と笑っていられるのだから。サイラス様も暗い表情をしていたし、父様はもう冷静な判断はできていなかった。
 実は、とても強く精神を持って冷静な判断ができるひとなのだろう、と感じた。飄々と笑う笑顔の裏は、きっといろいろなことを考えているはず。
「じゃあな」
エメロットはやっぱりいつものようにそう言うと、扉を閉めた。

 わたしは一人になって新しい部屋を見渡す。

 二人は眠れるだろう大きいサイズのベッドに広すぎる部屋。誰も使っていはいなかったのだろう散らかっていないし閑散としている本棚などが見える。だが部屋はちゃんと綺麗にしてもらっていたようで、すぐにでも使える。
 ため息をつきながら上着を脱いで、シャツのボタンを二つ開けて緩めると、ベッドへと身体を沈ませた。

 「疲れた……」

 いろいろ、疲れた。
 駄目だ、もう。今日は休もう。
 仕事はそんなにしていないが何せ今日は気が張る話し合いばかりが続いた。ルシュドを呼びたいと思ったが今はよしておこう。なるべく、心配や苦労はかけたくない。また明日、報告がてら森へと行けばいい。
 そんなことをつらつらと考えていたら、わたしはいつの間にか夢の中に落ちていた。

*・*・*

 誰かに頭を撫でられる感触がして、ゆっくりと意識が浮上する。
 髪の毛を梳く気持ちの良い間合いで動くその掌のおかげで重たい瞼は開いて、真っ暗な部屋に最初は視界が歪む。徐々に月明かりに照らされた部屋が輪郭を持ってわたしの目に移って、その人物の姿もはっきりと見て取れた。

 「……ルシュ…」

 【何だ】

 「なんで、いるんだ……」

 まだエメロットの屋敷に移動したことは伝えていないはずだ。なのに何で入れているんだろうか。
 【夜だからな、暗闇なら俺には建物も何も関係ない。……お前の気配を探って進んだらここへ来た。まあ、そんなのはどうでもいい。……お前はここへ移動したのか?】
「母様とこじれた仲を修復するのは時間がかかる、わたしはあの家にいたら縛られるから……エメロットの屋敷に来たんだ。エメロットはわたしの師でもあるから、養子になることも承諾してくれた」
【そうか】
ルシュドはそう言っただけで、また髪の毛を梳きはじめる。ベッドの脇に横掛けしているルシュド。昼に見せるような気だるさや辛さはなく、闇を統べるひとだということを肌で感じ分かるくらいに生き生きとしている気がした。
 心配はかけたくない。
 そう思っていたのに、やっぱり心配してきてくれたようだった。
 それを分かってしまうから、言わずにはいられなかった。
「………ルシュ、これでずっと一緒に居られる。一緒にいてくれ、最後まで」
【―――ずっと、だ。最後なんて言わせない】
すぐさまそう否定するルシュドにわたしはふっと笑んで、ルシュドのほうに向けて寝返りを打った。手を伸ばすと、ルシュドは意思が通じたようにその手を握ってくれて、続いてギシッとベッドの上に乗ってくる。

 【なあ、契約をしないか】

 「――――――契約……?」

 【……普通の精霊と精霊使いがすることのない、特別な契約だ。それをすると、お前はもう一生俺から逃れられない。俺のものに、……俺の番(つがい)となる、契約】

 番?
 ……ルシュドのもの?

 いまいち内容の掴めない話にわたしは覚醒して、じっとルシュドを見つめた。

 【〝栄(さかえ)〟という。―――この世界では花嫁と言ったほうが理解しやすいか?そうじゃなかったら、婚約かそういう類でも通じる】

「……わたしは人間だぞ?そんなことしていいのか、……ルシュドとの恋はいけないものだと思っていたんだが、覚悟も決めていたつもりだったけど……」


【その覚悟も必要だが……、できることはできるんだ。ただ、お前はこれをすると〝人間ではなくなる〟】


呟く声は何だか不安げに揺れていて、彼がずっと言いたくて言えなかったことなんだと悟った。


【今すぐ答えを出さなくていい。だが、……いつか答えを出して俺と契約をしてくれ。……今は、お前が俺の傍にいてくれればそれでいい】


穏やかな笑みは変わらずわたしに向いている。口調や態度ががらりと変わってもそれだけは変わらない。ゆっくりと愛でるように撫でられるその手が頬に伝って唇を妖しく撫でた。

 「ルシュ……」

 【…………シア…】

 低く掠れた声が切なそうに吐き出される。

 わたしはそれにびく、と肩を震わせながらぎゅっと目を瞑った。それと同時に温かく唇に触れる感触がした。食まれるように何度も繰り返されるそれは、息をするために口を開けた瞬間に深くなる。舌が侵入してきて思考も息も全て奪っていかれるような。
 ルシュドは、ずっとわたしを好きでいてくれたんだろうか。
 そんな密かな疑問はこのキスで証拠になっているような、そんな気がした。いつか、聞いてみたいと思いながらその質問は心の棚に閉まっておく。
 欲しいと云うような、奪うような、求めるようなそれは、彼の気持ちを何よりも代弁してるようで。
 切なさに涙が滲む。

 「……っふ…ぁ」
【下手だな、お前】
 何を揶揄しているのか分かってわたしは赤面しながら顔の近くで口角を歪めるルシュドを睨んだ。
 そんなわたしの心をきっと分かっていながら、そんなことを言う。
「……い、いちいち言うな!」
【……だが下手だけど俺のために頑張ろうとするのはそそる。煽るのは十分上手い】
意地の悪い笑みは極悪人のようだ。というかすごく愉しそうで、顔が若干引きつりそうになる。穏やかな優しい口調でしゃべって微笑むルシュドの姿が遠い過去のようだ、少しだけそれを残念に思うのは確かだが―――今の素を見せてくれるルシュドにも心は掴まれているのだから、何ともいえない。酷く、心はルシュドに捕らわれていて、どうしようもない。

 ―――直接的に言いすぎだろう!

 赤面しながら内心悲鳴を上げるが、優しく撫でられるその手つきにそんなものも全部払拭させてしまう。
 上書きするように優しい口づけが唇に降って、そのあと額、瞼と落ちてくる。

 【疲れただろう、起こして悪かった。寝ろ】
「……うん…」
繋いだ手に力を籠めて、遠回しに離さないと公言しておく。それに聡く気づいたルシュドは苦笑して、わたしの頭を撫でる。
【子供】
「………うるさい」
昔から甘えられるのはルシュドだけだった。母様も父様もそんなものをするのには無縁の存在だった。姉様にだって心配はかけられずに、そんなに甘えた記憶はない。エメロットは師ではあったし、簡単に甘えるなんてことができる関係でもなかった。――ほんとうに、本当にルシュドだけだった。
 言葉とは裏腹に嬉しそうに笑うルシュドはわたしの頭を再度撫でる。

 【ずっといてやる。……お前のそばに、ずっと】

 「うん……」

 【うん、ってお前、やっぱり子供】

 「うるさい、じゃあ、ああ!そうしてくれ」
【今更大人ぶるなよ、―――いい、ゆっくり休めよ、シア】
苦笑したルシュドの低い声がそう眠りの始まりを告げる合図になる。

 ―――なあ、ルシュド……。
 心の中で愛しいと酷く実感する彼の名前を呟く。
 お前が〝本当のこと〟を話してくれたこと―――その〝栄〟のことが聞けて、わたし不謹慎だけど嬉しいんだ。
 ルシュドがそうやって苦しそうにそれでも望みを呟いてくれることが。
 今まで感じたことがないくらいに幸せなんだ。
 これからも本当のことを、きっと、少しずつわたしに教えてくれるんだろう。その時、少しだけ後悔に顔を歪めながら。悲しそうに、苦しそうに、それでも、望んで。
 ルシュドはわたしを望んでそう言ってくれるのなら、わたしも真剣に考えなければいけない。
 この短い命も含めてルシュドがそう言ってくれるのなら、わたしは―――早く答えを出さなければいけない。

 ルシュド……、嬉しいんだ。
 わたしは。

 ひたすらに実感する。―――ああ、わたしはこの人に出逢えて良かった。
 好きになって良かった。
 大切に想われて、愛されて、よかった、と。

 姉様や弟が羨ましくて母様が恨めしくて、変わろうとしなかったわたしも愚かだった。全てのことが重なって悲しさは作られたけど、それがルシュドに出逢えたひとつの要因でもある。―――辛いことだったとしても、「そんな小さなこと」と言うことができるかもしれない。
 全ては彼に出逢うための過程だったのだとしたら、―――――――きっと。

 ああ、やっぱり、切なくなる。
 お前は、言葉と態度でわたしへの気持ちを表してくれる。わたしもお前と同じくらいに、示したいのに。

 「ルシュド………、好、き……、」

 うわ言のように呟いたそれ、――――――彼は聞こえているだろうか。聞こえていたら嬉しい、けど。
 うやむやになった意識は闇に包まれて、深い底へと落ちていった。

*・*・*

 切なさに痛む胸もとを掴む。
 知らなかった、知ろうともしなかった。
 誰かを想うことの甘い苦痛を、それが叶った時の幸福を。
 欲しいと望んで、絶対に得られないと思っていた、けれどその馬鹿みたいな望みを捨てられずにあがき続けて、そうして手に入れた。手に入れた少女からも思われて、そんな少女の口からこぼれる言葉。 

 【……俺のほうが、好きだった。それをお前は知らないだろう】

 どれほど、望んでいたか。
 そしてこれからも望み続けるんだろう。
 愛しい少女が己のそばにあり続けることを。

 苦笑するように呟いて、ルシュドは、彼女の髪を撫で額に口づけた。





 ―――――――ルシュドに、そうされたことを当のわたしは知る由も無かった。

*・*・*

 翌日から、エメロットと共に軍へ行くということ以外はいつも通りの日常が戻った。変わったことと言えば、数日後の初仕事からわたしに精霊使いとしての任務が加わったということくらいだ。
 精霊使いは一部の人間しか知らないため極秘だが、前からサイラス様は精霊使いの任務の支援という形で参加しているらしくそのまた補佐という形でわたしにまで関連してきたのだ。
 王であるセザール様も一連の出来事を理解してくれて助かった。その代わりに彼は笑いながら「これで精霊使いの仕事も任せられるな」と部下殺しの言葉を吐いてくれた次第だ。

 「サイラス様、……他の精霊使いと話はしてるんですか」
「ああ、横暴な男だった。部下の名を認知されることを嫌っているようで、リーダー格である男の名前しか知らない」
「まあ、その人の思いは分からないこともないです」

 婚約破棄の一件から皮肉にもサイラス様とも昔のような話せる関係になりつつある。精霊使いとは言えど、表上はサイラス様の精霊使いと同行の任務時の補佐という形だから、これからも共同することが多いのだろう。

 「精霊使いにとっては名を知られることすら命と先の人生に関わりますからね」

 精霊使いは、この国では神に匹敵する存在であるし国に護られているから危険なことはないだろうが、ひとたび国の外に出たら精霊使いは道具や力にしか思われなくなる節がある。人が悪ければすぐ捕まったりするが、精霊使いはそれさえも抜けられる力があるため―――それよりもっと酷いことを悪い奴らはするのである。
 たとえば、恋人家族友人を誘拐して無理矢理言うことを聞かせたり、力を使えないくらいに痛めつけたり、眠らせられたり。精霊使いと言えど、不意を突かれたら危険に陥ってしまったりすることはあるのだ。なにせ生身の人間だ、力を使いすぎれば体力や神経を消耗するし、リスクだって伴う。
 だから、なるべく個人情報という個人情報全てを隠し通すことが先決なのだ。
 自分の身を護るために。そしてまわりの大切なひとを護るために。

 「その男は、部下を護りたいんでしょう」
「まあ、そう受け取っておく」
「何か、気に食わないことでもあるのですか」
「何せ、態度がな……」
「我慢ですよ」
サイラス様の苦悶顔にそう苦笑して、わたしはそう言った。
 「二週間後だが、俺とお前の他にエメロットを連れて行く。お前も一人誰かを連れて朝の七時に王のもとに」
「了解しました、では失礼します」
同行を一人許可するようだ、―――ランザを連れて行こう。とすぐ即決してそれを伝えにわたしは自分の隊の持つ執務室へと足を急がせた。

 「ランザ、お前を二週間後の任務に同行させたい。サイラス様とエメロットもいる。精霊使いの支援をする」
「―――!?いつそんな大任務をしょい込んできたんだよ!つうか、お前、あの家から……」
「ここで話すことではないだろ。あとで話すから仕事をしろ」
安易に話すな、とランザを睨んで部下たちに視線をやる。聞いていないふりをするあたりは重々優秀な部下たちだ。わたしが直に見て選んだ部下たちだが、本当に良い性格の者ばかりで、こちらが大助かりしているくらいだ。異例なくらいに仲はいいので貴族から成り立つプライドの高い小隊からは鼻に突くと文句を言われているが、それもアルザ家のわたしが隊長というだけでいい圧力がかけられるから構わない。

 それに……

 また、いい肩書きがついた。

 貴族に流す表向きの情報では―――アルザ家は長男であるわたしの弟ロイが継ぐことになって、嫁に出すはずだったわたしはわたしの父であるレイシスの友人であるエメロットの家や家督の相続者、後継者として養子に出されたことになっている。いわば、何の暗い根もない友好的なよくある一般的な話である。
 娘、ということに少々の問題はあるが―――養子に出される側であるエメロットも軍の中ではトップを争う重鎮として馳せている。それを形にも養父に持つわたしに刃向ってくる者は以前にましてさらにいなくなった。
 噂が本物になったころの周りの反応が楽しみだ。
 ふっと笑みながらそんなことを思いわたしは、大きな椅子へと腰かけるのだった。

 数時間経って今日すべき仕事はもう終わりになり、部下たちに声をかける。

 「―――お前たち、もう終わっていいですよ。ここへ提出して帰りなさい」
「はーい」
とミラ。
「了解しました」
アーサーも頷いてとんとんとまとめた書類を整えた。
「おっつかれさまでーす。いやぁ、疲れた。レシア隊長とランザ副隊長はまだ仕事っすか」
「ええ、まあ、そうですね」
ロトの言葉にわたしは苦笑して頷く。
「ほら、帰りなさい、残業させるほどわたしは鬼ではないですよ」
立ち上がってランザにも目を向けた。
「お疲れ様でした、また明日」
エルがそう無表情で言って頭を下げる。部下四人は一緒に扉を出て行って、ランザと二人きりになる。
「よし。お前はわたしを手伝え」
切りかえ早くそうランザに言った。心得ているように、ランザも苦笑して頷く。
「りょーかいだ、何やればいんだ?つか、話せよ」
「あいつらがまとめた書類を重ねてそこに置いておいてくれ。朝一でサイラス様に渡す」
そう命じておいてわたしは部屋にあるコーヒーをいれてランザに渡す。
「サイラス様との婚約は破棄した。……お前には悪いが、わたしにあの家はもう無理だ。母様との関係も……」
それが以外にも大きな寿命という理由もあるのだが、いつも心配してくれてこれからも付き合いの長いだろうランザに言う必要はないだろう。それこそ、全てが変わってしまうくらいになるまでは隠し通すつもりだ。
「自由に生きたいというわたしの願いをサイラス様やエメロットに言ったら、エメロットがわたしを養子にしてくれると言った」
「エメロットって……第一小隊隊長の……?呼び捨て?」
驚いたように呟くランザにわたしは苦笑いを零す。
「エメロットは幼い頃の剣の師だ。わたしの父と友人だったからな、その横のつながりでもある。まあ、エメロットとは付き合いは長いしそこは問題ない。お前に話してはなかったか?」
当たり前すぎて師弟関係のことは話していたような気がしたが、首を横に振っているランザを見るとそうではなかったらしい。
「まあ、そういうことだ。お前は心配するだろうが、案外わたしは前より幸せだ」
「……なら、いいけどよ」
「……婚約はもともと乗り気ではなかったし、今のほうがわたしは幸せだから」
「おう、なら良かった」
終始硬かった表情もわたしの幸せという言葉を聞いて、ランザはゆるく笑みを零してわたしの頭をぽんぽんと叩くのだった。

*・*・*

 二週間後のはぐれ精霊殲滅の任務の同行が数日後と迫った夜。
 いつものように、と言えるほどにはルシュドがわたしの部屋へと来るのが日課になっていた。ルシュドが来ない日にはサラが来たりする。フィリップは至る所で会っているから久しぶりという感じではないので、たまにしか来ないけれど。
 三人が一緒にくることは稀であって、わたしが森へ行くときは三人が故意的に揃うのだとルシュドは言っていた。たぶんきっと、わたしのために都合を合わせてくれていたのだろう。いつも三人でいたからてっきり付き従っているのだと思っていたが、普通の時間はあまり縛ってはいないのだと言う。ルシュド曰く【来るなら来い、何処かに行きたいなら勝手にしろ】らしい。

 「ルシュド……」
【―――何だ】
低く安心する声はゆるやかにわたしの耳元へ届いた。いつものようにベッドに腰を横掛けしてわたしの隣に座るルシュドは人間離れした優美さを持ってわたしを見つめていた。
 わたしは上半身を起こして、ルシュドを見つめ返す。
 「教えてくれ、〝栄〟のこと。お前たちのこと。もっと知りたい」
【―――あぁ】
少しだけ眉を歪めて、それでもルシュドは頷いた。
【何が知りたい】
優しくそう言われ、彼の中でまだ―――あの穏やかに笑んでいた部分は消えていないのだと分かって、少しだけ嬉しくなる。だからだろうか、口調が変わってからすることのなかったことをできた。手を伸ばしてルシュドの懐に寄り添う。ベッドから身体をずるようにして頬を胸に寄せると、ふっとルシュドが笑うのがわかった。
 そうして、あの頃のように抱きしめて髪を梳くように撫でてくれる。
 「〝栄〟っていう存在は分かったが、それは精霊と同じなのか?」
【存在は同じになる。人間なら誰でもできるが話が成立しないと駄目な辺り、これになるのは精霊使いだけだろうな。そして女に限られる。だから、この世界の精霊使いは少ないんだ】
「みんな、その〝栄〟に?」
【精霊使い自体が稀だ。そして、その中の女の数人は〝栄〟になっているだろうな。何人か見た】
「……いるのか、わたし以外に」
驚いて呟くと、ルシュドは押し黙ってから小さく口を開いた。
【……だが、〝栄〟になるということは人間ではなくなるということだ。この世界の全てを断たなければいけない】
 言われて突きつけられる現実に言葉もなく黙り込んだ。
 そうだ、何も失わずに……ルシュドとの恋が叶うはずはないのだ。
 ルシュドは人ではない精霊という神にも等しい存在で、彼らが〝見れる〟という力がなければ手にすら届かなかった人で。甘くはないのだ、この人と共に生きるという道は。
 【人間界に来ることもできるが身体が人間界に居られるようになるまでは慣れが必要だ】
 どうやら〝栄〟になってからも精霊と同じだから、ルシュドたちみたいにこちらに来ることは可能だと言う。だが、そこまでいくのにも話によると時間がかかるらしい。
 【〝栄〟は契約をした精霊の力を直接心臓や身体に送り込んでそうなる。だから、俺の〝栄〟になるお前には俺と同じ力が扱えるようになる。そこは精霊使いの今と同じだ。―――俺と契約をしたら、俺と同じ闇の力を扱えるだろう。それと、多分……お前も昼間にここへは来れなくなる】
辛そうにわたしの頬を撫でそう言うルシュド。
「大丈夫だ、わたし……お前といられるだけで、嬉しいから」
そんなに悲しむ必要はない。わたしはきっと、ルシュドがいれば何でも大丈夫だと思える安い女だ。
【それにあちらの世界の生活はこことは真逆だ。それに慣れるのも苦労する】
「そう……」
【まあ、〝栄〟自体の説明はこれくらいだ】
「人からは見えなくなるのか?」
【いや、見える。人間だった名残でな。それは心配するな】
「そう……」
わたしは頷いて、ルシュドに体重をかけるようにして目を瞑る。

 【今日はもういいだろ、また明日話してやる。ベッドで寝るか、運んでやるぞ】
「ううん、ここでこうやってでいい」
壁に添ってあるベッドに座って、その壁にルシュドは背中を預けていた。その懐にわたしは座ったまま目を瞑って眠る態勢に入る。あの時はこれがいつもで、けれど今は少しだけ二人の関係も変わった。
【そうか】
端々にまだ彼の優しさは垣間見える。それが嬉しくて好きだ。


 ―――わたしはこんなにルシュドが好きだ。


 確かに感じるこの感情は偽りなどではない。もともと心根からあった感情なのだと確信できた。
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~ Comment ~

これも、甘めの話になりました~

蓮姫につづき、グランディア・ルシュド編も
甘め強化週間ですね~、はい。

というかこのお話は切なさも濃度高めでやっておりますので、
甘くて切ない感じになっていただければ、いいな、と!
これからこちらもヒートアップ?してまいります。

これから、ルシュド編執筆がんばりまーす。
お楽しみに!

甘いですね(^^)

こんにちは。
2人がすごく甘いですね(*^^*)
レシアは一人ではなくて、サイラスやエメロットみたいにちゃんと支えてくれる人はいるけど、でもそれだけじゃダメで、全部を受け入れてくれる伴侶がいないと自分を保てないんですよね。
これからルシュドがどう甘〜く支えてくれるか、楽しみにしてます(^^)

こめ返、dada様へ!

こんにちわ~!
コメントをくれるなんて///ふふふ(*´艸`)
まずはお礼を。ありがとうございます。

この編でのレシアは、サイラス編の時よりも少しだけ弱いですね。
心の傷も深くきっとルシュドがいなければ立っていられないのだと思います。
ルシュド編では
切なさ倍増で、ふたりでひとつみたいなお話が書きたかったので、
dada様はそれを理解してくれたのだろうな、と嬉しい限りです。

楽しみにしてくださったら、高宮もがんばれます!

高宮

良かったです(^^)

こんばんは。
何だかずいぶん偉そうな書き方をしちゃってますね、失礼しました(><)
でも高宮さんが書きたいと思ってらっしゃる事を受け止められているようで良かったです。
蓮姫の方がかなりシリアスのようなので、こちらの甘々を期待してます(^^)

コメ返、dadaさまへ!

いえいえ大丈夫ですよ♪

これからもよろしくお願いいたします。
グランディアもこれから甘々に入りますし、
蓮姫もシリアスな章ですが、読んでくださると嬉しいです!
本編が終われば、蓮姫は番外編もup予定なので、
お楽しみに☆

高宮
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