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 ←【短編】痛刻の変革~Side蓮~ →痛刻の変革 【肆】
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「グランディア国物語」
Chapter3 わたしを繋ぐ声<ルシュド編>

出来るのだ。

 ←【短編】痛刻の変革~Side蓮~ →痛刻の変革 【肆】
 任務が明日と迫った時、いつものように穏やかで甘い逢瀬の時間がやってきた。
 「これからしばらく遠征だから会えなくなるかもしれない」と告げると、少しだけ機嫌を損ねてしまったようで話を聞いてくれないでいた。むすっとしたまま綺麗な顔を逸らして、腕を組んで窓の奥の光る月を見ているルシュド。
「……ルシュド、わたしも会いたいからなるべく努力するから」
なんとか話は聞いてもらおうといろいろな提案を口にして、ルシュドの隣へと膝を抱えて座った。定位置になりつつあるベッドの奥の一部分に座っていたルシュドはちらりとわたしを見てため息をついた。
【出来ることを言え】
「……出来る」
わたしに対して決してこういうことで怒ることはしなかった、今までは。今怒ってくれるということが嬉しくて、前よりもちゃんと『ルシュド』という人を見せてくれる気がして。
 こんなことを考えるのがこの状況に不相応だろう、それでもそう思わずにはいられない。

 【言ったな?】

 ニヤリ、としたり顔で笑ったルシュドは極悪人のようだったが、それさえも美しく見えるのだから恐ろしい。そしてそんなルシュドにも例の如くわたしの心臓は掴まれてしまうのだからどうしようもない。
 ルシュドの指が伸びてきて、顎を掴んで引き寄せられる。
 【誠意、見せてみろ】
試すようにそう言ったルシュドはじっとわたしを見ながら唇を近づけてくる。
【目、瞑れ】
「……っぁ」
ぎゅっと目を瞑ると噛まれるような口づけが降ってきた。
【口開けて】
直接的な命令に耳まで赤くなりながらも言うことを聞く。微かに開いた唇から舌が入り込んできて、いとも簡単にわたしの舌は捕えられてしまった。頭の中で「誠意、誠意、誠意」と巡っていた言葉すら今はうやむやになって、思考が真っ白になる。
「……んっ……ふ、ぅ……ぁっ」
その口づけにお互い夢中になるように、息が荒くなっていく。噛みつくようなそれでさえ、もう何が何だかわからなくなる。わたしが逃げられないようにこめかみに回された手は強く、全てが霧散したころベッドへと音を立てて沈んだ。

 【……シア】
「……っはぁッ……あ……ルシュ、ん」
【……ん】
息を吐くようにしてキスの合間に名前を呼ばれる。息を大きく吸い込むと同時に名前を呼ぼうとするが、甘い吐息と共に唇が再度塞がれた。

 ―――何ださっきの相槌、……可愛いとか思ったら絶対駄目だ!

 焦ってもっとどうしていいのか分からなくなる。可愛いとか思ったら普通は止めないといけないこれも受け入れてしまう。というかもう手遅れだ。
 侵入してきた舌は味わい尽くすように深く絡んでくる。

 「……いき、がっ……!」
【――――――】
「息が、できない……っ!」
限界すれすれのところでルシュドは解放してくれて、息をぜえぜえと吸っているわたしを見下ろしてくる。満足そうにだが不満そうに、わたしの髪を緩く撫でる姿はどうみても目に毒だ。
【初めてにしては上出来】
「……そ、それはどうも」
【今度は受け入れるだけじゃなくて応えろよ】
「ッ!?」
与えてくる要求が高すぎる、わたしは絶句しながら妖艶に笑むルシュドを見上げていた。

 【……もう寝ろ、明日は我慢してやるから……早く出せよ。どうせ、精霊使いしか見えないんだろう?……普通の人間なら大丈夫だ】
「ああ、分かってる」
【精霊使いに何か言われたら俺を出せ。普通の精霊だったら俺を見て黙る】
「―――?分かった」

 ルシュドの言葉は少しだけ理解できないところがあったが、今度それは教えてもらうことにする。
 俺を見て黙る、ということは何なんだろうか。精霊の世界では、上級のルシュドだ。高い地位にいたりするのだろうか?その先は聞いてはいけない雰囲気が漂っているので、黙っておく。
「帰るのか?」
【いや、明日は会えないんだ。……今日は一緒に寝る】
自分の寝床のように毛布の中に入るルシュド。わたしはそれさえも嬉しくて無言で頷いた。

 【―――遠い】
眉根を寄せて一言言ったルシュドがぐいっとわたしを引き寄せる。腕の中に捕まったわたしは、心臓がうるさく鳴るのが分かった。
 どうすればいい、なんか……いつもと違うんだが……。
 いつも腕の中で寝る、ということ自体は同じことをしているはずなのに―――ベッドの中で寝ているというそれを付属するだけでこんなにも緊張の感じ方は違うらしい。
 その緊張に気付いたらしいルシュドが小さくふっと笑って、頭や背中を撫でてくれたり、ぽんぽんと一定の間合いで叩いてくれる。からかうところとそうでないところをちゃんと見極めているあたりも抜け目ない。
 ああ、駄目だな。
 ―――ルシュド、かっこいい。
 そう思わずにはいられない。

 そんなことをつらつらと考えていたら、いつの間にかわたしはうとうととしていた。

 【できればすぐにお前と契約をしたいがな―――、それは俺の我儘だ】

 だからだ。
 その切実そうな呟きは聞こえることはなかったのだ。

*・*・*

 次の日の朝、命令された通りの時間にランザと共に王の間の扉の前にいた。
 「レシア・アルザ隊長ですね」
「いや、今はレシア・ファミリアだ」
「失礼しました!レシア・ファミリア隊長!―――お通しします、王と指揮官からの伝言は預かっておりますので」
兵士は慌てたように敬礼をして、扉を開けた。
 王の職務をする部屋でもある王の間にはもう、サイラス様とエメロットがいた。エメロットの場合、同じ家なのにもうわたしが起きたときはいなかったのだ。

 「王、お久しぶりです。あの日以来ですね」
「ああ、そうだな。元気そうで何よりだ、いろいろな事情は今二人から聞いた、ご苦労だったな。お前も軍所属のままでいいから精霊使いとしても働いてもらいたい、そのための同行だが、よろしく頼むな」
「はい、それが命令でしたら……わたしは構いません」
拝命する礼を取ってわたしは微笑んだ。
 「え、おい!お前、精霊使いって!」
「お前……セザール様と話をしていたのか」
「仲いいなあ、セザール様とレシア」
ランザ、サイラス様、エメロットは各自にそう言った。
 わたしは全てにおいて意味深な笑みをこぼすと、言っておく。
 「精霊使いと明かしてもいい奴はバディのお前しかいないと思ってな」
まずはランザにそう言う。
「セザール様とは以前に話したことがありまして、その時に精霊使いだと運悪くばれてしまいましてね。ですが、お心の広いセザール様は黙認してくださいました」
「何だその言い方は、まあ……力が強いことも分かっていたしな、こちらにもいろいろあるということだ」
セザール様自身も精霊使いであるということはきっとわたしと、―――彼直属にいる精霊使いたちしか知らないのだろう。そしてその直属の精霊使いたちに今日これから会うのだ。

 一応……同じ力を持った人間ということか。

 違う意味で緊張する。自分以外の精霊使いと会うのは、セザール様以外では初めてだ。そして今から会う彼らは精霊を相手に戦っている言わば珠戦力となっている精霊使いたち。
 ―――わたしもそこそこ力は使えるが……、彼らと渡り合えるかどうか……。
 力を使えるのはサラのものだけだ。サラの力は軽い癒しの力と防御。ルシュドやフィリップとも契約をすれば彼らの力も使えるようになるのだが、まだ契約までは行きついていない。


 まだ未来も決まってはいないというのに、契約がしたいと思うのはいけないことなんだろうか。
 早く彼との繋がりが欲しいと思うのは愚かな願いなのだろうか。
 証という絶対に覆らない繋がりが出来れば、きっとわたしは歩いてゆける。幸せな未来に向かって。その道にどんな苦難があり、否定が横たわっていようとも。
 それほどに好きだ。
 ルシュドが好きだ。
 誰よりも大切な一番一緒にいたいひとだ。


 「戦えるかどうかは分かりませんが、精霊たちと話して……協力はしてもらいます」
わたしは攻撃型のルシュドとフィリップの力を扱うところまではいけていないので、二人に頼んではぐれ精霊を始末してもらう形になるだろう。


 「頼むぞ、お前の力も十分な戦力だ。―――それと、紹介する。今日からともに旅をすることになる精霊使いのフローガ、ルサフィ、ヴロンディだ」
セザール様の言葉とともに精霊使い特有の真っ黒は服装に黒い外套―――通称「黒服」を着た三人が姿を現す。
「作戦以外では話すつもりもないし慣れ合うつもりもない」
第一声がそれだ。リーダーらしき赤髪の男。フードを目深にかぶっているがちらりと見えるその赤を目に飛び込んでくる。
「セザール様から聞いてるぜ。……お前らの中に精霊使いがいるってな……―――お前か」
すぐさまわたしが見つけられる。

 精霊使いは、気配で互いが分かる。その強さや……契約している精霊の力が。

 「お前も上級か?」
 「お前ものようだな」

 今まで不機嫌そうだった顔がニヤリと面白そうに歪む。わたしの精霊が上級だったことが面白かったのか、わたしの態度が面白かったのか、多分どちらもだろう。
「見せてみろ、俺も見せる。……久しぶりに精霊使いを見たんだ、楽しませてくれよ」
旅をするのにあたってフードは取るのが原則なのだろう。その青年―――フローガはフードを取って、精霊を呼び寄せる。
【ルーチェ、火の精霊だよ】
フローガの前に現れたその穏和に微笑むその青年がそう自分の名前を名乗る。

 「……わたしの〝それ〟を見て、他の精霊使いがどういう反応をするか……わたしはよく知らないんだ。自分以外の精霊使いとも会ったことはなかったし、わたしはそれを普通だと思っていた」

 わたしはそう言いながらサイラス様やエメロットよりも前に進み出る。
 証のある掌を翳して、淡い光を話す。

 「……少し、来てくれ。―――自己紹介をしてやって」
【お前が呼ぶのなら、……面倒だが仕方がない。お前が嘗められるのは僕も〝彼ら〟も、気に食わないから】
となりに現れたのは稀に見る青年姿のサラだった。その直後に王の間の大きな天窓がバリンッと大きな音を立てて割れる。そこから現れたのは―――精霊使いにだけは見えるだろう―――フィリップだ。
【お前の声は俺にも届いているぞ。俺もいたほうが面白いだろう?】
ニヤッと楽しそうに悪どい笑みを浮かべるフィリップ。
「……ということは来るのか?」

 そう遠回しに聞く―――――――彼の存在。

 【たぶんな、今の時間……あいつは弱いから来るのは少しだけ、遅くなる】
「そう」
昼間は弱いと言っているのにそれでも来てくれるのか、こんなことのためにと言ってはフローガには悪いが、彼らにとってはやっぱり自己紹介なんて「こんなこと」だろう。

 「お前……何体、精霊を持って」
「へえ、そういう反応をするのか。悪かったな、わたしが軍人で」
にこっと笑んで、わたしはフローガにそう言った。フローガはきょとん、としたあと面白そうにくすくすと笑う。
「ああ、悪いな軍人で。お前、こっちに来たほうがいいぜ。その化け物並みの素質は軍人じゃもったいねぇ」
「契約をしているのは、こいつだけだ」
となりにいるサラを指差す。
【―――ルーチェ、お前の主人はよほど口が悪いんだな。……まさかお前とここで会うとはな】
【だな、俺も驚いた】
隣にいたフィリップもサラの言葉に頷いている。
【何言ってるの、俺のほうが驚いているよ。君たち二人が見初めた子を見れることもね。君たちは誰かに跪くような性格ではないはずだと思っていたんだけど】
ルーチェがそう言い返す。
 【ま、こいつの良いところはお前が知らなくても問題はないな】
【そうだな、僕たちが知っていればいいだけの話だ。―――しかも、それは少し違う。確かに僕たちもシアを想っている、これ以上ないくらいにね。―――だが、忘れてはいけない。僕たちがいるということは、僕たちよりもシアを愛す者がいるということだ】
語るようなサラの言葉。

 その言葉で、みるみるうちにルーチェの顔色が変わっていく。

 【フロー、下がって!】
「は?……何で!」
【いいからっ!】
ルーチェが慌てたようにフローガの前に立った。

 気配が、じりっと一瞬凄まじい何かで押しつぶされたように変わった気がした。

 「何だ、今の……レシア……?」
サイラス様の声が聞こえる。サイラス様も感じたらしい大きすぎる気の気配。

 彼は、こんなに強かったか。
 彼の気配はこんなに押しつぶされそうなくらいの殺気に包まれていただろうか。
 もう分かりきっている気配。
 いとおしいひとの気配のはずだ。
 ぐいっと後ろから腰を引かれる。ふわりの彼の香りが舞って、後ろから抱きしめられているのだと気づく。

 【さて、俺のお姫様を挑発している男はどこのどいつかな】
久しぶりに聞く穏やかな口調―――のはずなのに、殺気走っているし何故か恐ろしく聞こえるのは何故だろう。殺気を隠すこともせずに駄々漏れだ。こっちまで緊張してくるが、護られている錯覚すら感じてしまう。
【…………ルシュド……様……やっぱり……ッ!】
ルーチェは悪夢が当たったとでも言っているような苦しい表情で、フローガを見やった。
【相手が悪い……、フロー駄目だ、あの子は大事に丁重に扱わなきゃ……じゃないと俺がひねり潰される】
恐ろしい、とただそれだけの感情が伝わってくる。

 ―――ルシュドは、精霊たちに恐れられている……?

 【そうだ、俺は悍(おぞ)ましくて愚かしい精霊だからな】
耳元に口付られるように言われる。耳の中に入って来た言葉に目を開いて、ルシュドを見つめる。感情を読み取られたようにそう言われた。
【―――ルーチェ、そのガキに敵対するような真似はよせとよく言っておくんだな。ついでに俺のことも説明してやれ。首が飛ばないように、そのガキを護りたいなら尚更だ】
【―――……はい!わかっています、ですから……ここで】
【しない、〝今は〟な。気分がいい】
ふっと笑んで抱き込んだ腕に力を込める。

 そうして跳びこんできた情報を驚くものだった。
 そしてきっとわたしにも聞かせるためにこうやって腕で拘束をしているのかもしれないと漠然と思ったのだ。

 きっと、覚悟を決めさせるために。
 わたしがそれが出来るのかどうかを見定めるために。

*・*・*

 【ルシュド様は闇の精霊、精霊界を統率するいわば王だよ。……だけど、精霊界は荒れていた。こっちでは契約をするけれどそんな約束を守る清い世界なんかじゃ本当はないんだ。強い者が生き残れる血なまぐさい世界。―――その中で王になったあの人は……殺戮者でもある。次々と刃向っていく者を手にかけていった……そうしないと統率ができない状況だった。血塗られる役をあのひとは買って出た。その代わり、王になり、その血塗られる役を買ったとして元老の精霊たちからも保護を受ける……精霊界で一番権威と恐怖を与える……王(ひと)だ】

 ああ、そうか。
 彼が悍ましいと愚かだと言った意味はそれか。
 なあ、ルシュド。
 そんなことで、わたしがお前を嫌いになるとでも思ったのか。
 あなたが王だからってわたしが引き下がるとでも思っているの。
 馬鹿だ、あなたは――――――。

 「なあ、ルシュド。―――契約しよう、また落ち着いたらわたしを……わたしを、お前のものにしてくれよ」

 わたしと似たような悲しみを背負うなら、
 わたしよりも辛い経験を乗り越えてきたのなら、
 血に染まった自分を愚かしいと憎んできたのなら、
 そのぶんわたしが愛そう、お前を。

 わたしはお前に会えて―――苦しかったあの屋敷での生活が変わったんだ。それと同じように、今度はわたしがお前を。

 小さな声で言ったその告白はきっとルシュドとサラとフィリップにしか聞こえていなかった。
 ルシュドは目を開いたあと嬉しそうに笑んだ。
 【ああ、お前がそれでいいのなら。……逃がさない代わりに、一生お前を愛して護ってやる。二人付属でついて来るが、まあそれも今まで通りだ】
ルシュドの返事は戸惑いに揺れながらも幸福そうで。


 ああ、これで良かったのだと思えた。


 「と、いうことで―――わたしの精霊はこの三体ですが、―――楽しんでいただけか?」
後ろにいる上級の精霊たちのことをそう言ってフローガやその後ろにいるルサフィやヴロンディを見やる。
「―――――――――――――――……」
びっくりしすぎて言葉も出ないらしい。本気で戸惑っているようで、フローガは固まっていた。
「闇の精霊……だよな、ルーチェ」
【そうだよ】
「……―――……その精霊の量からも言って、認めざるを得ねえ。個人的にはお前のそのいけすかない性格も気に入った。だが、……契約する精霊は選んだほうが身のためだぜ」
それだけ言ったフローガはルーチェを戻した。
「認めていただけるのは嬉しいが、……精霊たちのことを他人に言われる筋合いはない」
わたしもそう言い返して、ルシュド、サラ、フィリップを見やった。
「すまない、帰ってくれ」
【ああ、また】
【じゃあな】
先にサラとフィリップが帰って行く。
 ルシュドが名残惜しげにわたしを見つめて目を細めた。

 「分かってる」

 またすぐに呼ぼう。寂しそうに顔を歪めた彼から発する言葉は口の悪いものなのに、悲しそうに瞳を揺らす姿は前の穏やかな彼そのもので。気持ちも分かってしまうあたり、ずっと一緒にいた暦が長いということだろう。
【また】
人前だったということもあるのだろう。どこにも触れずに一言そう言って、ルシュドは消えていった。

 「じゃあ、出発しようか。―――行きましょう、サイラス様」
「ああ……、終わったのか?精霊使い(おまえ)たちのあいさつとやらは」
「はい、終わりました」
にこっとそう言って、わたしは頷いた。
「よし、では行くか」
サイラス様も気を取り直したようにそう言って踵を返した。わたしもサイラス様の後ろを歩いて、不意にちらりと同種である精霊使いの三人を見やった。視界の隅に入ったのは険しい表情でこちらを見つめるフローガの姿だった。―――だがその険しさはどちらかというと心配やその類に似ているような気がする。

 「―――どうした?」

 となりにいるランザに声をかけられる。
 「いや、何でもない」
わたしはそう言い返して、今度こそ本当に彼らから視線を逸らした。


 大所帯になるため馬を借りることはせずに歩いて国境まで向かうことになった。まだ外套のフードは脱がないようで、どうやら姿を隠すそれは境の外に出るまで続くらしい。
「……おい、なんであんなに隠しているのかお前には理由が分かるか?」
エメロットにそう問われて、わたしは苦笑する。
「―――わたしも本当ならばああしなければいけないんですがね、……グランディアの国を出ると精霊使いはただの力を持った道具です。国を支配したりするための脅威としか思われなくなります。捕まったら最後、死ぬまで力という道具として扱われるでしょうね。精霊の力を使って人を殺すことは精霊使いの中では暗黙の了解で禁忌です………ですが、それをしなければいけない状況に陥るでしょう。そうともさせない場合があったとしたら、家族や仲間を人質にされて死ぬまでこき使われるとか……ですかね」
「………悪かった」
エメロットが謝って、サイラス様も苦い顔をしている。ランザも眉間に皴を寄せて険しい表情をしていた。
「……まあ、大丈夫です。何かあったらわたしがあの人たちを護ります。人間からも、ね」
「そんなことできるのか?」
「たぶん、そのためのわたしやサイラス様でしょう?―――国外でも名の知られるサイラス様という名のブランド。……わたしはそれですらできなかった場合の……暗躍ですね」

 暗躍、という言葉に男三人がピクリと反応した。

 「それは、どういうことだ……?」
「――――――精霊が三体もいれば……人間では不可能なことを少しはできるということです、かね」
有無を言わせぬ笑みでそう言うと、わたしはそれ以降口を開けることはなかったのだった。

*・*・*

 その日、野宿することが決まりそこで初めて精霊使いたちの顔を見ることになった。一人はフローガ、赤髪の青年だ。美しいというよりは男らしさのほうが強く、かっこいいという印象の青年だった。もう一人はヴロンディ、こちらは柔和な笑みが合う美青年で合っている。そうして最後はルサフィと言われて少女の格好をしているが、たぶん―――少年だろう。
 ―――まあ、……手っ取り早いっていえばそうだよな……。
男から女になるというのは何とも斬新で、だがよくありそうな話だ。そしてまだ幼いからこそできることでもあるのだろう。

 だが顔を見せただけでもう距離を置いた大木のところに三人は座ってしまった。

 わたしたちも距離を置いた大木の下に座って休んでいる。今は寒い季節ではないし、逆に夜でも少し熱いくらいの気候だ。
 「―――おい、あまり離れるなよ、レシア」
「何言ってるんだ、お前やサイラス様は男だろうが」
ランザの言葉にわたしはむすっと言いながら立ち上がる。
「だが、あまり離れるのはよくないぞ。レシア」
サイラス様も険しい顔をして言った。
「………はい、少ししたら戻ってきます。ちゃんとエメロットの隣で寝ますから大丈夫ですよ」
わたしは笑いながらそう答える。
「まァ、俺は一応親父だからなあ」
大きく笑いながらエメロットは頷いた。そうしてすぐ離れて彼らから見えない死角までやってくる。


 もし、契約をするとして。
 一緒にいることを決めたこの心はもうルシュドのところにやったも同然だけど、これからをどうしようと悩んでしまう。
 それでも自分を愚かだと言って嫌いだと言う彼を愛してあげたいのだ。
 それは紛れもないわたしの想いだ。


 「ルシュド、いるんだろ?出てきて」


 ルシュドと恋人というものになり〝女〟というものが分かってきたわたしは、以前よりは少しだけ可愛げのある口調というものを覚えてきた。そう言ったわたしに少しだけ苦笑しながらもともと居たんだと思えるくらいの自然さで影から姿を現すルシュド。
 闇は彼の支配下。
 それはもう分かりきったことだから、何も言わないでわたしも彼のところへと走った。
 脆く崩れそうな感情を補うように手を伸ばす腕をルシュドはやっぱり全てを分かっているように掴んで抱き留める。
 【決心はまだつかないか?】
それが〝契約〟のことを指すのだと分かる。
 わたしはただ首を横に振って、俯く。
「違う……」
やっと出てきた言葉は酷く掠れていて涙声だった。説得力のないそれにルシュドは苦笑して優しく髪を撫でてくれてる。ルーチェに会った時の殺気はどこへ行ったのか分からないくらいに、穏やかな気配を見に纏って。
【俺は狡く質の悪い男(やつ)だぞ、お前の感情なんて知らないふりをしてお前の言った言葉を信じてしまう】
「いいんだ、それで」
【―――お前が後悔しても、もうお前を離せない】
切実そうに言われる言葉。

 わたしだってそうだ。
 もうルシュドのいないこれからは考えられない。
 どうやって生きたらいいのかすら、見当もつかない。
 幼い頃から積み重なってきた年月とその温かい感情は比重を伴って、わたしたちの間に確かに降り積もってきていた。
 もうお互いがお互いを放せないことは、契約などしなくても分かっている。


 【なら何故浮かない顔をしている】
頬に指が触れてすっと撫でられた。眉間に皴を寄せて不機嫌に、でも心配そうに顔を歪めるルシュド。
「契約はしたい。ルシュドと一緒にいられる確かな証が欲しい。いずれ、必ず〝栄〟になるってこともわたしは誓える。でも今は、わたしはちゃんと周りの人たちに恩を返さなければいけないと思うんだ。……あの屋敷から引き取ってくれたエメロット、何も言わずに婚約破棄に頷いてくれたサイラス様、いつも通りにしてくれるランザ、……精霊使いと知られても、兵士のままでいさせてくれて恩情を与えてくださっているセザール様。……身近なひとに助けてもらってわたしは今……ルシュドと居られる道を選べるから。裏切ることになるなら、今は……ちゃんと恩に報いたいんだ」

 ルシュドといざこざになるのは嫌だ。
 だからなのか、彼には素直に全てを打ち明けるのがわたしのいつもの常だった。素直に話せば、ルシュドもちゃんと真剣に考えてくれる。その話、言葉に、一瞬だけ真剣に言葉を聞いて、ふっと口端を上げた。
【泣くな】
「―――?」
【馬鹿だな、お前は】
ふっと笑いながらわたしの髪をひたすら撫でて、抱きしめるルシュドはひとしきりそうした後口を開く。
【お前がそういう奴だって俺が分からないとでも思ったのか?……分かる、お前はそういう奴だ。―――今さら俺が反対するとでも思ったのか】
「え……じゃあ……」
【ああ、〝栄〟は今すぐにならなくてもいい。だが、覚悟だけは決めてくれ。そういう契約を俺はずっとしたいと言って来たんだ。だが、契約をしたからにはいずれならなくていけない。―――お前はその覚悟が出来たんだろう?】
ルシュドの問いにわたしは力強く頷く。
「それは出来てる!……大丈夫だ!」
【なら、俺は、それだけで報われている】
低い声が嬉しそうに囁いてわたしに口づけを落とす。


 【お前の願いは?俺にお前が求めるものは?】


 契約の始まりの常套句だ。


 「お前にずっと傍にいてほしい、わたしもルシュドを裏切らない、だから裏切らないで。ずっと傍でわたしを護ってくれたら嬉しい。だからこの先もずっとずっと傍にいて」
【―――ああ、約束しよう】
「ルシュドがわたしに求めるものは?」
【お前の心が欲しい。――――俺を愛してくれ、傍にいろ。……そして〝栄〟になる誓いを。……栄になった時、お前の心と俺の心は繋がれる】
「―――?」
【意思の疎通が出来る、まあ……なってみれば分かるさ】
「そうか」
【俺の願いはそれだけだ。俺を愛して、俺の〝栄〟に】
「……約束する」


 【契約を】


 一折り言い終えると、ルシュドはわたしのシャツのボタンをひとつふたつと外していく。

 「―――!?」
【どうせなら、証は俺にしか許せないようなところのほうがいいと思ってな】
ニヤリと笑う彼は彼のままだ。だが、その瞳は冗談でもなく本気なようで胸元の中央に唇が付けられた。契約の誓いの、口付けだ。
 その瞬間。
 黒い禍々しい光が奔流のように散らばる。
 「―――ッ!!!」
【すまない、耐えろ】
ルシュドは分かっていて今まで言わなかったようだった。否、言えなかったのかもしれない。これから先にあることを言ったら、きっとわたしの決心を鈍らせるものになるはずだから。
 だから苦しそうな顔を時折していたのか。

 ―――ルシュドと一緒にいられるためなら、どんなことも我慢するのにな。

 その光は浮かび上がった紋章に向かって飛びこんでいく。禍々しい光が身体の中に入ってくるのが分かる。

 「―――あぁあ゛!!」

 どす黒い何か塗り潰されるような、苦しくて悲しい何かに飲み込まれるような。ルシュドはこんな強くて禍々しい力を従わせているのか。これは闇の力がわたしを試しているということなのか。
 がくりと崩れ落ちたわたしの身体をルシュドが支えてくれる。

 【すまない、話はあとだ。―――その力に抗い続けろ。意識を保て。お前に分けた俺の力だ、……お前をその闇に認めさせて屈服させるんだ。―――すまない、耐えてくれ】
「―――だいじょうぶ、……わたし、このくらい」
ぜえぜえと息を吐きながら、内側から襲う力に対抗するように強く目を瞑る。

 闇の力が身体中を巡る感触。
 抗え、わたし。決して、負けることのないように。
 屈服させろ。
 ―――いや、そうじゃないかもしれない。
 受け入れれば、―――いいんじゃないだろうか?だってこれは、ルシュドの片割れの力だ。愛する彼の片割れだ。抗うのではなく、……この先わたしの一部になるのだから。闇はルシュドと繋がれるものになるのだから。

 ―――違う、ルシュド、……受け入れるんだ、よ。

 そう思ったら、すとん、といとも簡単に闇が内側から食い荒らすように暴れるのがおさまった。

 「―――っはぁ……う…」
【―――!お前、…どうしたんだ……?】
驚いたようにそう言うルシュドの呟きに、わたしはふわりと笑んだ。
「……ルシュドの闇だから、愛するお前の片割れだから……受け入れないでどうするんだって……思ったんだが……、そうしたら止んだな、痛いのが」
微かに笑いながらそう言った。

 ルシュドの腕の中で安堵したようにわたしは息を吐く。

 「ちゃんと、わたしの力になってくれたみたいだ」

 足元を見やると、黒い霧が霧散するようにこっちへと向かってくる。狼のような姿を形作った闇は、わたしを覗き込んでしゅんとしている。

 【お前の闇は狼か……黒狼(こくろう)だな】
苦笑するようにわたしを撫でながらルシュドは言った。
「黒狼……?いいな、それ」
【俺の闇は龍だ】
「黒龍だな」
【そうだな】
わたしの呟きに、ルシュドはふっと笑った。
 ルシュドの話によると上級の精霊使いの中でも力の強さで言えばずば抜けている闇の精霊であるルシュドの力は群を抜いているらしい。そのため力もいろいろと特殊であるのだそうだ。意思を持つ闇を使役するのは難しく、それだけ周りからも恐れられている。闇でも使役しなければ攻撃されるが、味方につければそれほど強いものはいない。
 それをわたしは勝てたのだと言う。
 そしてその闇は普段は霧になったり影になったりいろいろしているが、頭が良いらしく何らかの『形』をつくりたがるのだという。わたしの場合の闇は狼になり、ルシュドは龍というわけだ。
【まあ、その黒狼はお前の闇(ちから)だというわけだ。命令すれば言うことを聞くだろう。ひとまず、契約も成功だ】

 わたしをまた抱きしめ直すようにしたルシュドは安堵しように息を吐く。
 わたしより緊張していたと言わんばかりのそれに少しだけ苦笑して反論する。

 「……言ってくれても、わたしの意思は変わらなかったぞ」
【すまない、怖かった】
「ルシュドが何を言ってるんだ」
くすくすと笑いながらルシュドの首に腕を回す。


 「なあ、見てみて。―――紋章、龍と狼だ」
対になるようにして描かれる龍と狼の紋章。向かい合うようにして複雑な絵の構成なっている。
【何にしろ、これでお前は俺のものだ】



 労わるようにして抱きしめられて、わたしはふわりと笑むのだった。
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~ Comment ~

久しぶりに甘いの投下

最近は蓮姫連続更新でシリアス続きでしたので、
ひさしぶりにグランディアを投下。

ルシュド編、若干甘めです。

もうね、想いが通じたからベタベタしてればいいよ。
べた甘は大好物です。もぐもぐ。

このふたりのお話ももうすぐで佳境に入るでしょう。
べたべたに甘ければいいです。そうしたい。
互いに想い合うふたりがかければいいなー、なんて。

高宮でした。

5/8修正。

いろいろ間違ってたし、読みずらかったですね。
直しました。

もうひとつどこか誤字あったような気がしたのですが・・・
見つけたら連絡ください 笑

もう一度時間あったら修正します、すいません。
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