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「蓮姫」
第九章 痛刻の変革

痛刻の変革 【肆】

 ←出来るのだ。 →痛刻の変革 【伍】

 皇眞はふらつきながらも立ち上がり、涙の筋が残った頬も、血に濡れた服もそのままに、部屋の障子を全て開け放った。
 そして、障子を開けた時、空の物置の中から母の姿が現れる。
 「―――やっぱり……、父様、あなたは護っていた……。 攫われたのは……彩紅だけ、か……」
唇を噛み切りそうなぐらい噛んで、皇眞は物置から雅姫を抱き上げて隣の綺麗な部屋へと移動をさせる。 蓮が護るようにしていたのは物置だった。 だとしたら、そこには大切なものがあったに違いない。
 皇眞の読みは当たっていたらしい。
 首筋に手を当てると、遅くだが脈打っている。 首筋に針を刺した跡があり、皇眞はそれが何か……、何故彼女が眠っているかをすぐに悟る。
 「―――母様……、生きていてくれてよかった」
 蓮による睡眠薬と同じ役割を果たす毒を盛られたらしい。 作れる人間は蓮と皇眞しか今はいないため、やったのは蓮だ。 母にこの惨状を、自分のその姿を見せたくなかったのか、何なのか。 だが、父が母にそれを行使したことは明らかだ。
 「きっと、見られたくなかったんだな……」
誇り高い父だ。―――きっと、そうに違いない。 
 生きていることに安堵してまた涙腺が歪みそうだったが、なんとか留まる。

 「―――そうだ、甲珠と珠愛!!! 探してもいなかったと行ったな……、二人はどこに行った……」

 呼んでも来なかった。 だとしたら、この家にいるはずだ。
 使用人が探した範囲は狭いのだろう。 なら、奥か構造が難解な場所か、それとも外か、だ。―――まだ全てを見きっていないようだったから、二人が見つからないだけだろう。
 「母様、俺もあなたにこの光景は見せたくない……、ですから、もう少しだけ眠っていてください」
この毒の解毒剤を作れるのも、蓮と皇眞だけだ。 あとは毒が自然に抜けるまで眠り続けるしかない。さらりと雅姫の髪を撫でると、皇眞は立ち上がって走り出した。
 部屋を進んで、全ての部屋を見切った頃には数十分が立っている。
 「いない……っ」
 だとしたら、外か。 皇眞は靴を履かないまま廊下へと飛び降りて、裏庭まで回る。

 「―――――――――っっ!!!」

 ―――居た………!!!!

 目頭が熱くなって、鼻がつんとする。―――絶望の中の幸いだった。 甲珠と珠愛は寄り添うようにして死んだように目を瞑っていた。すぐに甲珠と珠愛に駆け寄って、二人の脈を確認する。
 「―――いきてる……」
自覚を持って、泣いていると分かる。 心臓がドクドク言って、本当に嬉しくて、嬉しくて、どうにかなりそうだった。
 ―――二人にまで死なれたら、わたしはどうすればいいんだっ。
 もう生きていると分かったから、その先は考えたくない。 
 「こうしゅ!しゅあい!!起きろ!!! ―――甲珠、珠愛……」
何度も何度も声をかけると、まず意識を取り戻したのが甲珠のほうだった。
「…………おう、…ま」
「甲珠……っ!」
目から零れた涙を拭いながら、甲珠に抱きつく。 甲珠は力なく笑って、されるがままだ。
「……ごめん、…気を失ってたらしい……君に報告に、行かなきゃだったのに……。 敵が強いし、多くて、ね……」
「いい、お前らが生きていてくれたらいい」
「―――そうだ。 …蓮様から伝言……。 地下に、生き残った人たちがいる。 外鍵は壊したから、ない」
甲珠の言葉に、皇眞は頷く。
―――別の扉を開けろ、ということか。 だが、それは予測で聞いたぞ。
「それも予想してた、分かってる」
「そう、……ならよかった……」
「ああ」
「はやく、行ってあげてね」
それは蓮と皇眞しか知らない当主だけが知る道だ。 敵に狙われやすい白吹に仕える者たちを護る最後の砦。 鋼鉄の扉に護られて、地面に護られる部屋だ。 外と家から鍵をかけられて、そして、両方が開かないと開けられない扉。 もうひとつ隠し扉があるが、それは当主しか知らない。
 最後まで死なないと誓った、生き残ると誓い自負するからこその、ものだ。 当主こそが、最大の守であり、鍵なのだ。
 「分かった、分かったから……歩けるか?」
「―――出血多量だよ……少しふらつくけど、大丈夫」
「そうか、良かった。 俺についてきてくれ」
「……ぅ……」
皇眞と甲珠が会話をしているときに、すぐ隣で呻き声が聞こえて―――珠愛がうっすらと目を開いた。 またもや、皇眞は甲珠と同じように珠愛に抱きつくと、「平気か」と問う。
 「………ええ、平気、よ。 ……出血多量で、気を失ったみたい……」
「甲珠と同じこと言ってる。―――良かった、お前たちが生きていてくれて本当に嬉しい」
皇眞は言いながら珠愛の頬を撫でて、立ち上がる。
 「珠愛、お前も立てるか。 一応部屋へ案内する。 母様も眠っているから、そこで一緒に待機していてくれ」
「いや……動くよ」
「―――動きたいなら、三十分は休め。 貧血なら尚更だ、命令だ」
甲珠はしっかりとした足取りで立ったので、ふらつく珠愛を支えて、雅姫のいる部屋まで二人を連れて行った。

 雅姫のいる部屋に行くには、血の海の蓮が眠る場所を見ることになる。
 「皇眞……蓮様…は」
「……皇眞!!」
甲珠さえも震える声で呟いた。 珠愛は悲鳴交じりに皇眞の名前を呼んで、口元を押さえる。わなわなと震える唇は、ショックの大きさを告げる。彼らにとって、蓮は伯父でもあるのだから、ショックは相当だろう。
「―――それ以上言うな」
低く殺気篭もった囁きと、甲珠と珠愛さえ射るような目つきの皇眞。 甲珠は少しだけ瞠目したあと黙り込んで、珠愛はびくつきながら唇を噛んで俯いた。
 二人も分かっている。 ―――平然とする皇眞がどれだけ心に痛みと傷を負ったのか。分かっているから、悟ってしまうから、何も言葉が出なかった。
 皇眞はそんな二人を見て、少しだけ表情を歪めたあと雅姫のいる部屋に二人を入れた。
 「とにかく休め、時計ならそこにあるから。 甲珠は最低でも三十分、珠愛は駄目だ。甲珠、休んだら主上にこの事を伝えてくれ。決議を行っていたら、名家の当主に。伝えないと、対策も練れない。まだ極秘にしたいから、義兄さんや、暁に頼んで……遺体の回収と……主上に火葬を頼みたい。頼めるか?」
「ああ。何か……当主みたいだね」
甲珠の呟きに、皇眞はふっと笑った。
「数十分前に当主になった。―――俺が今は白吹の当主だ」
「―――…!……そう、…俺は君のために動くよ。 だから、一人でやらないんだよ」
「―――…わかってる。今、走り書きだが内容を紙に書くから、待ってろ」
 幸いにもすぐ隣には彩紅の部屋となっているところだ。 部屋の主は、今はいないが書き物をするものはまとめておいてあるところだ。
 紙と筆を取り出して、さらさらと数秒前に甲珠に言ったことを書いてまとめる。万年筆のため、乾きは早い。 白吹の家紋の判子は彩紅の部屋にはないので、指紋で朱印を押しておく。
 珠愛は見るからに疲労しているし、いくら強くても女の身体である。そこで、無理に動くのは困難と分析し、甲珠にその書を渡し、使いの命を出しておく。
 皇眞は指示を出して、二人の返答が帰ってくると、また来た道を戻ったのだった。

***

 地下を開けるためには、蓮から譲り受けた白吹の当主のピアスが必要だ。 
―――ピアス……?
ふと、皇眞は蓮の亡骸へと近寄って耳元を見た。
―――無い……。
主とするピアスは皇眞の耳の上にあるが、片割れのピアスが無い。 父のもとから取られたということは絶対ないだろうし、周りに転がる死体はどう見ても、父が殺した者たちだ。
 生き残っている奴は先に逃げたのだろう、人質にしていただろう雅姫がここにいるということからそれは伺える。
 だとしたら、父は何らかの理由で自己的にそれを誰かに渡したのだ。
 だが父は敵に無暗に渡すはずがない。
―――何故だ。


 部屋を突き進んで、何か元の時との片鱗が無いかを探す。

 蓮が残した“何か”のはずだ。 それを探しに、一滴の片鱗も見逃さないように。

 そして、絶対に元はなかった異変を見つける。



 「こいつは……敵の刺客……か?」
ひとつも傷ついていない刺客の服を着た少年を見つける。 この一角だけ血がない。 血の足跡はひとつだけで、あとは汚れている気も一切なかった。
 顔を見せているということは、この少年は降伏をしたらしい。
 ―――父様。
 少年がもし降伏をするのだとしたら、その相手は父である蓮しかいないだろう。 戦わずして、降伏させることくらい蓮には容易いことだ。
 蓮が何故この少年を生かしたのか、この少年を起こせばその真意が分かるはずだろう。
 「―――」
まずは本当に気絶しているのか、否か、調べるために色々探ってみる。 死んでいないことは確かだが、一応脈を図ろうと首筋を見たときに、皇眞は目を見張った。
「……これは…」
雅姫にあった針を刺した痕と同じだった。

 それに驚いて、王眞は一瞬動きを止める。

 ―――ということは……。

 蓮はこの少年を意志を持って“生かした”ということになる。 薬を使ったのなら、それは尚更で、皇眞にこいつを目覚めさせろと言っているのと同じことだ。
 蓮は少なからず、この少年に―――興味を持ったということなのか。
 真意は何だ。
 だが、この場に少年の刺客がいるというのも可笑しい。 この少年は大人と共に戦いに参加できるほど、強いということなのだろう。 だが、何故蓮に降伏した?
 皇眞は考えながら、少年の隠し持っている武器を遠くに投げ捨てて、その少年を引き続き探っていると、その手が強く握り締められていることに気づく。
 「何だ……」
皇眞はその手を無理矢理に開かせると、そこから、―――蓮のつけていた片割れのピアスが出てきた。

 ―――…!

 これで、決まった……。
 皇眞は蓮の姿を脳裏に過ぎらせ、その少年をじっと見る。

 「……こいつを……殺すな、…仲間に入れろ……そう言いたいんだな、父様」

 皇眞は呟く。
 大切な家宝とも言えるピアスを預けたくらいだ。 この少年との応酬の中で、蓮は確信たる何かを感じたのだ。そして、生かして皇眞にこの少年を使えと言っている。
 「お前、ピアスは俺のものだ。貰うぞ、」
蓮から引き継ぐ、自分のものだ。 皇眞はその少年からピアスを取ると、自分の何もつけていない耳にそれをつける。これで、当主としての印のピアスは対になって皇眞のもとへとやってきた。
 皇眞はそして、少年を抱き上げて、―――雅姫と、甲珠と珠愛がいる部屋へと戻ったのだった。

***

 少年を連れて部屋に戻る途中、―――数匹の馬の音がする。
 「―――……甲珠か」
どうやら、月夜たちに連絡をしたらしい。 少年をかついだまま庭へ降りると、門の鍵をあけて開く。
 現れたのは、月夜と暁人と淘汰。 そして淘汰の部下の数人、案内をしてきた甲珠だった。
「―――皇眞!」
暁人がそう言って。
「なんや、これは!! 言われたとおりに、部下たちが来るさかい……待っとれよ」
淘汰も言って、その言葉に皇眞は頷いた。
「……皇眞、椎名からも呼んでおいた。 蓮様は椎名の部下をあまり使ってはいなかったみたいだ」
「そうか」
それもまた頷くと、甲珠にかついでいた少年を渡して月夜を見る。
「……こいつ、皇宮に連れて行ってもいいか? それと、白吹の中がひどい。 死体を片付けないといけない。―――置き去りにしていったからな。 死体を調べてわからないところはこいつに吐かせる」

 皇眞はそう言ったあと、後から来た棺を見て安堵する。

 「父様も、これで安心できるだろう。 こっちだ、来てくれ」
棺を持つ時雨の刺客の者たちにそう言った。 皇眞は踵を返そうとするが、その手を―――月夜に掴まれる。
「―――っ…」
掴まれた手は、悲劇の刻印のように突き刺した甲のほうだった。 貫通している手は、痛みが鈍るくらいに痛い。掴まれたことで激痛が走り、少しだけ顔を歪める。
 服で隠していたが、それも捲くられ―――そこにいた全員が驚愕に目を見張らせる。
 「―――……お前ッ…」
月夜が言葉を失ったように呟き、淘汰も、暁人も、甲珠も顔を歪ませた。
 その手は目を背けるくらいに酷い有様だったからだ。 月夜はすぐに服を破って、掌に強く巻いた。
 「お前は何てことをしてるんだ! 手の感覚はあるのか」
「―――…ある」
「―――どうして……っ」
「痛みがなければ、正気なんて保ってられない……!」
震える声で皇眞は呟いて、先を急いで歩いていった。
 その言葉が、震える声が、――――――皇眞の痛みの具合を、周りの人間に苦しいほど分からせて、彼らは何も言えなくなった。

***

 「―――――とうさま……」

 棺の中に横たえられる父の姿を見ながら、王眞は本当に小さく呟く。

 今自分の心臓にぐるぐると渦巻くそれが何なのか、皇眞は分かりきっている。 自分がそれに飲み込まれないように、自分がちゃんと自分を保てるように。 皇眞は酷く冷静になるしかなかった。
 自分は女であることがばれて、そうして、枷を止める何かが外れると―――自分でも分からなくなって、暴れてしまう。
 それなら、
 悲しくて、苦しくて、絶望で、それが外れてしまっても……同じになってしまうのではないだろうか?
 怖い。 それが、絶対に無いとは言えないから怖い。

 棺の中に眠った父の遺体は、原型を留めていないのだ。

 「―――今日中には、燃やしてやってくれ。 父もこんな姿は見られたくないはずだ。 ―――敵の片付けも頼む。 義兄さん、すいません……あなたの部下を使わせてもらって……」
「平気や」
「―――甲珠、地下に行く。 付いて来い!」
淘汰の返答を貰うと、皇眞は立ち上がり毅然と言った。 甲珠は頷いて、皇眞の後ろまで来てそのまま後について行く。 「……義兄さん、暁、主上。 ここで待ってて」
笑みを貼り付けたまま、皇眞は雅姫や珠愛がいる部屋を指差す。
「だが……」
「手伝うで!」
暁人と淘汰が反論するが、―――皇眞と二人の間を珠愛が両手を広げながら、入り込んだ。
「……―――ここに居てもらいます」
珠愛の言葉に、皇眞は彼女の後ろでふっと笑んだ。
 「―――すいません、義兄さん。 暁もな。 ―――分かるだろ、この家では……白吹が統治するこの地域は、主上じゃなく、俺が“皇”なんだ」
「特に、この家では独裁国家だよね」
横から甲珠がくすくす笑う。
「……うるさい、ま、そういう事なんだ。 もうここは俺の護る家になった、……勝手に荒らしてほしくはないし―――」
皇眞は言いながら、―――後ろから現れた啓が皇眞のほうに走ってくる。
「旦……ではなく、皇眞様!……遺体の除去は終わりました。 庭にある仲間の遺体を今時雨の皆さんに安置所に運んでもらっております。 あと、敵の遺体も……」
「―――啓……、よくやった。 感謝する。 ―――今から地下へ行く、お前も来い」
「かしこまりました」

 
 そう言ったあと、皇眞は甲珠と啓をつれて、地下へと行く。
 その途中で、啓が口を開く。


 「皇眞様」
「何だ?」
「こんな不幸の中、私は嬉しいのです。あなたがこんなにご立派に育って、旦那様がいなくなっても強く立つあなたが。私は、あなたを産まれ頃から見て参りました。恐れながら自分の子のように思っておりますゆえ、本当に嬉しいし、頼もしい」
啓の言葉に皇眞は笑む。
「そうか……、俺も啓がいてくれて頼もしいぞ。ひよりも、他のみんなも。お前たちがいるから、俺も頑張れる。ま、こんな子供が当主になって……周りの風当たりは厳しいだろうがな」
「全力で対応させていただきます。 周りが何と言おうと、あなたは旦那様の子供で……現当主です。あなたは蓮様のように、周りを使って、部下を使って、私たちを使って、名家でさえも使い、優位に立つのです。それが、白吹当主です。ですが、私たち白吹の者は、主となるあなたや旦那様たちがどれだけ私たちを大事にしてくださっているか分かっているから、周りが何を言おうとも仕えていけるのですよ」
大人だから、そんなに厳しいならも優しい言葉を投げるのか。
 だが、もとより前者についてはそのつもりだ。
 「―――…そのつもりだから、心配するな。使えるものは全部使って、白吹とお前たちを護る」


 話していると、地下へとたどり着く。
 「お前らはここで待っていろ。 別の道の鍵を開けるから。―――見せてはいけない」
隣の部屋へと甲珠と啓を残して、障子を閉める。
 そして、本棚の端を掴んでぐいっと横へと引っ張った。そこのところに、黒い鉄製の扉がありそこの鍵穴に、自分の耳にあるピアスをはめて、回す。 ガチャリ、と開いた音がしたあと、ピアスを耳に戻した。
 皇眞にしか開けられないから、最後の砦であり、隠し扉になるのだ。
 開いた扉を開いてから、そこにある取っ手を回す。 鈍い音がして、扉が開いてただの壁のところから地下へと続く階段が現れた。
 暗いその地下の階段を歩いて、行き当たる壁に触れる。 カチャ、と電気をつけるとそこにはまた鍵穴があった。
「―――またか」
ピアスを外すと、またその鍵を開けてその扉を開く。

 「皇眞様!?!?」

 女の使用人の声が聞こえる。 みんな名を知っている使用人たちと、刺客の服装の人間。 白吹の者がいたり、椎名の者がいたり、だ。
 「―――かなり生きているな、良かった」
皇眞が言うと、ひよりがこちらへやってきて涙ぐんでいる。
「……どうしたんだ、何故泣く……」
「蓮様が……わ、私たちだけ生きているなんて―――っ…」
泣いているひよりの肩に手を置いて、皇眞は笑んだ。
「―――…そうだな、父様は死んだ。 白吹の当主の理念は、家族を仲間を部下を……、命を懸けて護ること。 父様はそれを果たし、こうやって俺の前にお前たちを見せている。 お前たちは父様が護った命だ。 感謝はされど、後悔される謂れはない」
皇眞は強い口調でそう言った。

 そして、そこに生き残る者たちに皇眞は視線を向ける。


 「―――まだ俺は十六で全てにおいて拙いかもしれない。強さには自信はあるが、この歳では貴族に認められないかもしれない。何より、俺にはお前たちに黙っていることがあるからな。―――だが、俺は、父の跡を継いで当主になった。俺も、白吹を命を懸けて護るつもりだ。家族も、仲間も、こんな俺の部下になるお前たちも、全部護る。だから、ついて来てくれ。俺に。まだ父のようにはなれない。だが、ついて来てほしい。お前たちがあっての白吹なんだ」

 頭を下げる、皇眞にみんながぐっと息を呑んだ。
 白吹に仕える者たちは、裏を生き、覚悟を持って白吹に仕えているのだ。 白吹の刺客は当主にしか仕えないし、命令は聞かない。 椎名の刺客も同様だ、そのリーダーは白吹の家系なのだから。 白吹に使える兵士と使用人は何組かの家族によって形成されているし、その全ては白吹に助けられた恩のある者たちなのだ。
 仲間のように家族のように、―――白吹はまとまっている。

 「皇眞様、私たちはあなたについて行きますわ。旦那様にも恩があります、みんなあなたが当主になることを望んでいる」
ひよりの言葉に口々に賛成の言葉が重ねられる。

 「―――本家の者は知っているが、刺客のお前らは知らないだろう。 お前たちには知ってもらいたい」

 生き残った、刺客に視線を向ける。

 「俺は……いや、わたしは―――女だ。それでも、“わたし”について来てくれるか?」

 中和的な少年の様な声から、声質の柔らかい女の声質へと変わる。
 皇眞の時の声と、少しだけ似ている綺麗な声音。

 刺客がぼーっと呆けたように、皇眞のことを見つめる。


 女……?
 誰もがそう思うが、そう言われると頷けることが彼らにも当てはまるのだ。まずはその背の小さな。体の線の細さ。男にしては、女のように綺麗な容姿。決定的なのは、声と自白になったが。
 
 「仕える主が、綺麗な女の当主なら―――護りたい気がかなり湧きますね」
冗談交じりにひとりの刺客が言った。
「あなたの強さは分かっています。 白吹のために仕える俺たちは、今までと変わらず当主に使え、……皇眞様のことは昔から知っています。 性別が変わったとしても、それは変わらない信頼のままです」
もう一人の刺客がいった。

 「ありがとう。 本当に感謝する」

 また頭を下げて、「こっちだ」と地下からそこの全員を出して、王眞は甲珠と啓に奥へと案内させる。
 「―――まだ血が残っている。 できるかぎり拭いてくれ。 ―――もう遺体は片付けたから心配するな」
皇眞はそう言って、全員をその部屋からいなくさせると鍵を一人で全て閉めてまたピアスを耳へと戻した。 

 きっと刺客たちはちゃんと口外禁止を保ったまま、仲間にも言うだろう。
 甲珠にも明かすように言っておかねば。


 ―――さあ、準備は整った。


 藍園寺がもし、真実を明かしたとしても本家さえ混乱しなければ―――わたしに怖いものなど無い。

 皇眞は確信して、その部屋を後にした。
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